「資金調達するために共感・感動の創出合戦ばかりが注目され、現場で起きているリアルな情報が置き去りにされている」――。NGO職員としてスーダンに駐在している田才諒哉さんは、貧困や飢餓などネガティブな情報ばかりが目立つ、国際協力団体の広報に一石を投じる。田才さんは、クラウドファンディングサイト「Readyfor」上で、国際協力活動を支援する「VOYAGE PROGRAM」を立ち上げた人物。同プログラムでは、これまでに1.1億円(2017年8月現在)以上の寄付を集めた。第4期を始めるにあたり、「新しいお金の流れをつくりたい」と強調する。(聞き手・READYFOR支局=榎本 未希・オルタナS支局スタッフ)

田才諒哉 1992年生まれ。新潟県出身。青年海外協力隊としてザンビア、国際教育支援NPOのメンバーとしてパラグアイ、日本の民間企業でクラウドファンディングサービスの運営に携わったのち、現在はNGO職員としてスーダンに駐在。ソーシャルエコマガジン『ソトコト』で「世界への扉」を連載中。准認定ファンドレイザー

―――VOYAGE PROGRAMの第4期がいよいよスタートしますね。まずVOYAGE PROGRAMは通常のクラウドファンディングとどのような違いがあるのでしょうか。VOYAGE PROGRAMのメリットを教えてください。

田才:通常のクラウドファンディングは、クラウドファンディング会社かその担当者とプロジェクトに挑戦する人の1対1のやりとりであることが多いと思います。でもクラウドファンディングに挑戦する人たち、特に初めての人であればなおさら、「1」で挑戦するということが不安なこともあると思うんです。

VOYAGE PROGRAMでは、「国際協力」という切り口で、同じ課題に取り組む仲間たちとともにクラウドファンディングにチャレンジをすることができます。具体的には、クラウドファンディング開始前にプログラム参加団体全員で集まり、それぞれのプロジェクトをブラッシュアップする機会や、日頃抱えている団体運営やファンドレイジング・広報に関する悩みを、同じ目線で共有し合える場を用意しています。

そうすることで、「1」で戦っているのではないという心強さと、クラウドファンディングだけに留まらない団体のレベルアップを図ることができると考えています。

例えば、1~3期までのすべての参加団体が参加しているFacebookグループでは、定期的にファンドレイジングや広報に関する情報を共有し合っています。また関東圏以外の地方団体の人が出張などの際に他団体の事務所を訪問し、交流を深めるということが自発的に生まれています。

――VOYAGE PROGRAMでは国際協力という共通の目的を持った仲間たちと一緒になってクラウドファンディングに挑戦することができるのですね。次に「国際協力の分野で、新しいお金の流れを作りたい」という田才さんの思いについて詳しくお聞きしたいのですが、今の国際協力団体の課題とは何だと思いますか。またVOYAGE PROGRAMを通してどのようにその課題を解決していきたいですか。

田才:個人的に思う課題は、「広報・発信力」と「現地での事業力」のバランスだと思っています。どういうことかと言いますと、現地での事業インパクト(ただ単に数量が多いということに限らず)が大きく、受益者の方々のために果たしている役割も大きいNGO/NPO団体は日本にも確かにあります。しかし「広報・発信力」が高くないために、ファンドレイジングに結果が出ていない団体も多いと感じます。

その原因はいくつか考えられますが、一つに、「広く市民から応援を集める視点」が欠けていることがあると思います。例えば、国際協力の世界では当たり前に使われている言葉ですが、SDGsやカウンターパート、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジなど、これらの言葉を使って自分たちの事業を説明しても、なかなか一般の人たちには伝わりにくいと思うんです。

言葉ひとつの選び方をとっても、それが人の共感を大きく左右するのだということを深く理解し、自分たちの事業についての正確性を保ちつつ、どう噛み砕いて発信していくか。そんな視点をもっと持てると良いと思います。

VOYAGE PROGRAMでは、クリエイターやコピーライターの方々にサポーターとして参画していただいています。そうした方々からのアドバイス、研修のもと、クラウドファンディングというかたちで実際に世の中の反応を数字でキャッチする、ファンドレイジングの実践の場をつくっています。

プログラムの参加メンバー、同じ時期にクラウドファンディングに挑戦するので一体感が生まれる

――VOYAGE PROGRAM を通して、国際協力団体の発信力を上げ、多くの方に活動のことを伝え、より良いファンドレイジングに繋がっていくとよいですね。VOYAGE PROGRAM第3期では田才さんもクラウドファンディングに挑戦していましたが、実際にプロジェクトを実行する側になり、田才さん自身の国際協力への思いに変化はありましたか。

田才: 僕自身、これまではファンドレイジング・広報の面で仕事をする機会が多くありました。しかし現在は国際協力NGOの現地駐在員として現場で活動する中で、ファンドレイジングや広報に対する「違和感」を少し感じています。ファンドレイジングがNGO/NPOにとって重要なことは十分理解しているのですが、「共感・感動の創出合戦」のような要素もあり、ファンドレイジングが注目されればされるほど、現場で起きているリアルが置き去りにされ、どう伝え、発信していくかという視点ばかりに傾いていっているような気がしています。

例えば、「アフリカには病気で苦しむ人々がこんなにたくさんいます」というメッセージを皆さんも目にする機会が多いと思います。たしかに事実ではあるのですが、現場にいて感じるのは、「もっと日本人と変わらない日常もたくさんある」ということなんです。

ファンドレイジング・広報の視点に立つと、前者にフォーカスしてキャッチコピーなどをつくりがちですが、ネガティブな側面ばかりを押し出した発信ではなく、もっと現地の人々のリアルな生活感を正確に伝えながら、ファンドレイジングや広報をしていきたいと思いました。

結局はそのバランスが大事なのだと思います。僕は日本でNGO/NPOをファンドレイジングや広報の面で支えるお手伝いをさせていただきながら、開発途上国の現場の事業も担当しています。この2つのどちらかに偏るのではなく、どちらもバランス良く考えながら国際協力をしていきたいと思っています。

ザンビアの小学校で授業を行う青年海外協力隊時代の写真

―――VOYAGE PROGRAMを通して、開発途上国へのネガティブなイメージではなく、現地の人々の生活感やリアルも伝えていけるといいですね。応援しています。最後にVOYAGE PROGRAM第4期への意気込みをお願いいたします。

田才:昨年スタートしたプログラムも、ついに第4期まできました。これまで22の国際協力団体の皆さんが参加してくれ、集まった総寄付額は1.1億円を突破しました(2017年8月現在)。1期〜3期までのプログラムを通して、プログラム自体も以前よりパワーアップしてきていると感じています。

前述のように、まだまだ僕の中でもファンドレイジングや広報に対する葛藤もありますし、これが「正解だ」というものはありません。そうした中で、今回もたくさんの国際協力団体の皆さんに参加していただき、一緒に試行錯誤しながらファンドレイジングを仲間たちとともに実践していく、そんなプログラムになっていければと思っています。

【VOYAGE PROGRAM 第4期】
【参加団体募集期間】2017年9月8日(金)まで
【応募サイト】https://readyfor.jp/voyageprogram4
上記ページ内の申請フォームより応募

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