原因不明、治療法未確立の難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)。意識や五感は正常で、知能の働きも低下することがないまま、身体のあらゆる箇所の筋肉が萎縮して徐々に身体が動かなくなり、歩くことも話すことも食べることも、最終的には自力で呼吸することすら困難になってしまう難病で、現在治療法は見つかっていません。12年前にALSと診断された一人の男性。治療法確立のために、発信を続けています。(JAMMIN=山本 めぐみ)
「皆に思っていることを伝えられないのが悔しい」
2010年11月、31歳の誕生日を目前にALSと診断された「ヒロ」こと藤田正裕(ふじた・まさひろ)さん(42)。外資系広告会社「マッキャンエリクソン」のプランニングディレクターとして働いていたヒロさんは、「広告代理店で働く自分がALSになったのには、何か理由がある」と、一般社団法人「END ALS」を立ち上げ、ALSを一人でも多くの人に知ってもらうことで、ALSを終わらせる治療法や治療薬の開発へとつなげたいと活動してきました。
ALSによって体の自由が奪われると、最終的には目を使ってのコミュニケーションしか残されていません。2012年に人工呼吸器を装着したヒロさんは今、最後のコミュニケーションの手段である目さえ動かなくなってしまう「TLS(TOTALLY LOCKED-IN STATE、完全な閉じ込め状態)」の恐怖と闘っています。アンケートに回答いただくかたちで、今の思いを聞きました。
──ヒロさんの近況を教えてください。
ヒロ:
瞼が重くてコミュニケーションをとるのが大変。瞼が重くて眼を動かしづらく、だんだん目を開けているのが辛くなってきた。
コミュニケーション方法は、瞳を動かしてYES or NOで答える。
楽しみにしていることは、訪問入浴、好きなテレビを見る、兄家族が会いに来てくれる時、リハビリとマッサージ。嫌なことは、コミュニケーションが通じない時や、月に2回の訪問ドクターの時にやる処置。
──今、最も大きい感情はどんな感情ですか。
ヒロ:
皆に思っていることを伝えられないのが悔しい。
──コロナによる環境や生活の変化、また意識の変化などはありましたか。
ヒロ:
コロナ禍になってみんなに対面で会えなくなったのは寂しいけど、リモートで会ったり活動できているから我慢できる。
──リアルで会ったり活動したりすることと、リモートで会ったり活動したりすることは違いますか。
ヒロ:
リアルに会っている時に、楽しいこと、大変だったこと、悲しいこと、苦しいことなど、同じ空間で過ごすからこそ感じられることがある。
──ALSに関してヒロさんが今、最も知ってほしいことや伝えたいことは?
ヒロ:
ALSがどれだけ残酷か。治療法がないのに進行し続けていくことへの恐怖。
──藤田正裕として、言いたいこと・伝えたいことは?
ヒロ:
ALSを終わらせるために、これからも俺だからできることをやっていく。
──明日、ALSから解放されたら、ヒロさんは何をしますか。
ヒロ:
先ずは思いっきり息をする、いっぱい水を飲む、自分で動く。
その後にやりたいことは山ほどある。
──記事を見てくださっている方へ向けて、メッセージをお願いします。
ヒロ:
いつもEND ALSを応援してくれてありがとうございます。どんな小さなことでも良いので、みなさんが出来ることを、ひとつ行動してくれたら嬉しいです。これからも応援よろしくお願いします。
音楽や映像を通して「END ALS」を発信
ここからは、ヒロさんと20年来の親交がある友人たちが「ALSを一人でも多くの人に知ってほしい」と集まり、音楽や映像を通して「END ALS」を発信するプロジェクト(インスタアカウント @hirofujita_als)から、JESSEさん(41)、Lucas Valentineさん(40)、山本亮介(Saga)さん(40)の三人に話を聞きました。
──どのようなプロジェクトですか?
Lucas:
音楽や映像、カルチャーを通してヒロやALSをもっと知ってもらうのがメインテーマです。 楽曲、MV、ショート動画などを制作し、主にネット上で発信をしています。直接関わってる皆は、ヒロの高校からの友達が多いです。クリエイティブな環境に居る人たちが多いので、自然と曲作りや映像などがメインとなります。
山本:
プロジェクトの目標は音楽・映像を通して見てくれた方々にヒロやALSに対して僕たちと同じ感情を引き起こすこと。言うまでもなくALSの病気を知っていただくことから始まりますが、もう一歩、僕らのように「自分も何かをしたい」という気持ちを起こすことを目標としています。よりヒロに近く、そして友人であるからこそのパッションやモチベーションを、END ALSのムーブメントに注ぎ込むことができるところに可能性を感じてスタートしました。
──プロジェクトのきっかけは?
Lucas:
元々は「ヒロの為に曲を作ろう」というシンプルなアイディアから始まりました。何かしら売り上げを立てて、寄付とか出来たら良いよね、ぐらいなテンションで。だけど気付いたら、周りからも関わりたいと言う声が上がってきて、せっかくなので大勢で何かしよう、と輪がどんどん大きくなりました。
Jesse:
きっかけは、ヒロのため以外何でもありません。
──皆さんのモチベーションを教えてください。
Jesse:
ヒロがまたサッカーボールを蹴れるようにって本気で夢見てます。これが僕のモチベーシ
ョンです。
Lucas:
ヒロやALSのことをいろんな人たちに知ってもらうのも勿論そうですが、このプロジェクトをきっかけに「自分も何かやりたいな」とか「自分も人助けしたい」といった気持ちを引き出せたら良いなと思います。 そしてまた、よりたくさんの人に知ってもらうことで、この病気の効果的な治療法が見つかることを願っています。
山本:
モチベーションは、プロジェクトをスタートした1年半前と信じがたいほど何一つ変わらないです。モチベーションの高い人間が次の人のモチベーションを上げ、その人が次の人のモチベーションを上げるという連鎖反応の形で、現在も一人と気を抜くことなく制作に励んでいます。
──ページを見てくださっている読者の方たちへ、メッセージをお願いします。
Lucas:
END ALS.
Jesse:
ALS及び難病は小さな変化が物凄くでかい進歩だと僕は思ってます。
今か、子どもたちの代になるかは分からないけど、僕はALSは治ると信じています。いろんな人に、ALSサバイバーの現状を知ってほしいです。
山本:
ALSの発症率は10万人に1人から2人です。そして45歳以下になると100万人に1人から2人になります。これは大体沖縄県全体に一人と同じぐらいです。ですが、ヒロの言葉を借りると「あなたは特別じゃない」。
ヒロは自分自身をさらけ出し、もしあなたやあなたの身近な人がALSと診断されてしまった時のためにALSとはこういう病気なんだということを、命をかけて発信しています。
まずは彼の行為に目をそむけず、ALSという病気を知っていただき、「ALSって何?」と検索していただくような小さい行動にさえ僕らは喜びを感じます。ヒロ自身も同じかも知れません。
6月21日には「世界ALSデー」。
ALS撲滅のためのチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、6月21日の「世界ALSデー」を含む6/20〜6/26の1週間限定で「END ALS」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。
JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、1日でも早くALSの治療法を確立するため、ALSの治療に関する研究を進める大学や医療機関での研究資金として活用されます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインには、“END ALS. I’m still alive”というヒロさんのメッセージを、書き殴るように描きました。「ALSを終わらせる」という強い意志を込め、“ALS”という闇を”END”という一筋の光が切り裂き、やがて覆い尽くし、消し去る様子を表現しています。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・6月21日は「世界ALSデー」。治療法未確立の難病・ALSを終わらせるために、私たち一人ひとりができること〜一般社団法人END ALS
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。