モデルの紗栄子さんは2010年から復興支援など支援活動に取り組んできた。活動の幅を広げるため2019年には一般社団法人Think The DAYを立ち上げ、コロナ禍で奮闘する医療従事者の支援や競走馬・競技馬のセカンドライフ支援を行う。支援活動を行うモチベーションとは。(オルタナS編集長=池田 真隆、写真=川畑 嘉文)

紗栄子さんは9月25日、東大発ベンチャーWOTA(ウォータ)による「WELCOM WASH GINZA」の発足式に参加した。同社は、有事のときにも活用できる水道に依存しない手洗いスタンド「WOSH」を開発したベンチャー企業だ。同日、商業施設における公衆手洗いを推進するためのプログラムを立ち上げた。

WOTAが開いた記者会見には紗栄子さんも登壇した。写真中央がWOTAの前田瑶介社長 ©川畑 嘉文

プログラムには、銀座で商業施設を展開する「銀座 伊東屋」「GINZA SIX」「Ginza Sony Park」「銀座三越」「有楽町マルイ」「ルミネ有楽町」などが参画。WOTAが開発したWOSHなどの手洗い機をこれらの施設に約100カ所設置。9月25日から27日にかけて利用者数などを調べて、どこにおけば最も効果的なのかを調べた。

紗栄子さんは被災地を訪れるたびに公衆衛生に課題意識を持っており、この発足式では、「コロナ禍で手洗いの必要性を改めて認識してほしい」と呼び掛けた。

紗栄子さんへのインタビューはこの発足式後に行い、支援活動を始めたきっかけや一般社団法人を立ち上げた経緯、関心のある課題などを聞いた。

インタビューを受ける紗栄子さん ©川畑 嘉文

――2010年から支援活動を始めましたが、そのきっかけは何でしょうか。

活動を始めたきっかけは地元宮崎で口蹄疫の被害が出たことです。自分が愛する人や地元の家畜が傷つく姿を見るたびに心が痛くなり、何かできることはないかと強く思いました。当時はまだ子どもが小さかったこともあって、義援金として金銭的な支援をしました。

しばらくは災害が起きるたびに金銭的な支援をしていたのですが、ある時一体このお金はどこの誰のためになっているのか、支援すればするほどそんなモヤモヤを抱えるようになってしまったんです。

このモヤモヤをクリアにしたいと思って、子どもが大きくなったタイミングで、現地にボランティアをしに行くようになりました。

一度出会った人とはSNSでもつながれたので、支援したいという思いを持つ企業や人と被災地をつなぐ架け橋になれればと思いながら活動してきました。

被災地に炊き出しなどで行っていますが、そのときに衛生環境に関して、不安に思うことは多々ありました。避難所では手洗い場はおろか、水の確保すら難しい場所もあります 。そのため、水道に依存しない手洗いスタンド「WOSH」は画期的だと思っています。

――2019年10月に一般社団法人Think The DAYを立ち上げましたが、どのような経緯で社団法人を立ち上げましたか。

ボランティア活動は強制されてやるものでもないですし、ひけらかすものでもないですが、災害についてはどこで何が起きているのかを知らせることは非常に重要だと思っています。

個人的に10年間、支援活動を行ってきて、ケースバイケースで何が間違いで何が正しいのか、発信することの怖さや人を巻き込むことへの責任はすごく強く自覚しています。

例えば去年、台風15号、19号が起きたときには千葉の被災地に現地入りして惨状を見たのですが、その壮絶さに居ても立ってもいられなくなりました。現地では、足が傷だらけになりながら、裸足の若者たちが瓦礫の上を歩き、助け合っていたり、お年寄りが屋根にのぼって必死に修繕したりしていました。

でも、1時間もあれば行ける距離にある東京では、普通の日常を送っていて、そういった方々に対してこの惨状を伝えなくてはいけないと思ったんです。

どのタイミングで何が必要なのか、これまでの経験から自分の中である程度予測はしていたので、すぐにSNSで物資を募って呼び掛けました。2日で4トントラック15台分の物資が集まり、知り合いの力を借りて届けることができました。

瞬間的に物資が集まったことにも驚いたのですが、しっかりと方法が分かれば、こんなにもたくさんの人が動いてくれる。そのときに、みんなを巻き込むプラットフォームをつくろうと考えたんです。

私がこのお仕事をさせていただいているのは応援して頂いている人たちのおかげです。この活動は、そういった人たちへの僭越ながら私なりの恩返しだと思っています。

2019年10月に一般社団法人Think The DAYを設立すると2020年8月に拠点を栃木県大田原市に移し、NASU FARM VILLAGEの運営にも参画している ©川畑 嘉文

――今後、取り組みたい社会課題は何でしょうか。

新型コロナもあって、生きていくだけで大変な時代だと思っています。自分は誰の何のためになっているのか。自己肯定感が得られづらい時代になってきたのではないでしょうか。コロナ禍で絶対的に必要な医療従事者でさえ、言葉で傷つけられている姿を見るとそう思います。

ネット上のいじめ問題もそうですが、スルーするスキルや自分のことを愛する力を育むことが大切な時代になってきたと思います。そういう意味では、最も身近な社会貢献は何よりも自分のことを愛すること。生活力を身に着けること。これが一番の社会貢献だと思います。

その先に、「誰か」や「動物」の支援があると思う。だからまずは、自分が幸せでいることが必要だと思います。私に関して言えば、誰かのためになれたということが自己肯定感につながっているのでボランティア活動を続けています。人への支援だけでなく、今年はファーム事業も手掛けることになり、引退した競走馬や競技馬のセカンドライフの支援も行っています。

社会問題は尽きることがないので、それぞれが身近なテーマで取り組んでいくべきだと思います。私は被災地支援だったり、子どもの 支援だったり、ご高齢者の支援だったり、馬だったりするのですが、それぞれが支援活動を通して心を震わせることで見つけていってほしいなと思います。

社会貢献に取り組む背景には次世代への想いが強い ©川畑 嘉文

――自己肯定感を高めるにはどのようなことを意識されていますか。

自分の好きな自分でいることを心掛けています。私の場合は誰かの力になれていると実感したときに、自分自身をほめることができます。自分一人のためだとがんばるモチベーションに限界があると思っていて、それが誰かのためになると自分自身がすごく強くなる。同時に広がりも大きくなる。

だから、自己肯定感を高めるには、自分の幸せを見つけることが大切だと思います。

でも、残念ながらネガティブな声のほうが広がりやすいこともありますよね。私も叩かれている印象があるかもしれないですが、現場ではすごく感謝されますし、支援の呼び掛けに被災者だった方が応じてくださることもある。今はいい流れを感じています。

ただ、正直に言うとマスメディアの取り上げ方には疑問を持っています。「偽善者」や「売名」などネガティブな側面ばかりを大きく取り上げている。

先ほども言いましたが、今は本当にいい流れが出来ていて、きっとこれを続けていくと世の中のボランティアに対する受け止め方も変わっていくと感じています。何かしたいけど、叩かれるのが怖いからアクションを起こさないという世の中にはなってほしくない。

そういう風潮をつくっていくことは、私たちタレントに、そしてマスメディアに求められている仕事です。少なくとも私は芸能人として自分の使命はこの風潮をつくることにあると思っています。

次の世代の子どもたちが、動きたいと思ったら臆することなく取り組める導線を引きたい。母親としてもそう思っています。

紗栄子:
1986年11月16日(33歳)宮崎県出身。
14歳で芸能界デビューし、モデルやタレント、女優として活躍。10代の頃から商品開発に携わり、アパレルやコスメを中心に様々な商品プロデュースを手掛ける。2010年より支援活動を始め、2019年10月に一般社団法人Think The DAYを設立。2020年8月に拠点を栃木県大田原市に移し、NASU FARM VILLAGEの運営にも参画。どの分野に関しても常に情報を発信し、活動の幅を広げている。