「ミレニアル世代」(1980年~1995年生まれの世代)の消費動向が世界や日本の企業の関心を集めている。世界共通の特徴として特に「物欲がない」ことが取りざたされるが、若者研究の第一人者である原田曜平氏は、「物欲がないわけではなく、企業が本気で若者向けにマーケティングをしていないだけ」と手厳しい。「若者をつかめない企業に未来はない」とまで言い切る真意は何か。(聞き手・オルタナ編集長=森 摂、オルタナS編集長=池田 真隆、写真=高橋 慎一)

博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田氏

――「クルマ離れ」が象徴するように日本も海外も若者たちに物欲がなくなったと言われます。

原田:若者の消費離れについて考えるとき、まず、本気で若者向けのマーケティングをしている企業がまだあまりないという現状を認識すべきだと思います。

どんなに志のある担当者がいても、少子化が起きている国では若者だけを狙うことはリスクで、「団塊ジュニア」(1971年―74年生まれの40歳代前半の世代)を狙えと上司に言われてしまいます。

サステナビリティを考えると、若者をつかまない企業に未来はないです。けれど、自分の保身しか考えていない経営者は単年度決算さえよくなれば良いと考えてしまい、若者に踏み込もうとしません。

若者の車離れと言われて久しいですが、本気で若者だけを狙った車ってほとんどないんじゃないでしょうか。車は1台つくるのに数百億円を投資するので、人口が少なく、収入が低い若者だけを狙うことはできないと経営層が判断し、結局は「中高年を狙おう」となってしまいます。

かつては、車に求めるものとしてスピードが重要視されていたので、エンジンが大切でした。ですが、今の若者にとっては、エンジン性能よりも友達と楽しく話せる広い車内空間が重要です。一言でいうと、ミニバンが重宝されるのです。

この感覚を自動車メーカーがつかんでいるかといったら、まだつかんでいる企業は少ないように感じます。極端に言うと、エンジン性能は、いくら落としても問題ないのです。しかし、その分、空間を広くする必要があります。しかし、そのような発想から生まれた車は一台もありません。「若者たちは、いまだにミニバンよりもスポーツカーをかっこいいと思っている」と考えがちです。

そもそもミニバンは日本では90年代に普及したのですが、ミレニアル世代はその年に生まれています。つまり、この世代はミニバンの高い機能性を感じなら育ってきた、「ミニバンジュニア」なのです。

父親がミニバンを持っていたら、近所の友達と大量の荷物を乗せて送り届けました。友だちから、「お前のところの車、大きくていいな」と言われて、誇らしげに感じて育ってきた世代です。

それが、子ども時代にミニバンがなかった世代からすると、ミニバンはダサいと思い込んでしまう。しっかり若者を研究していれば、若者たちはミニバンをクールだと感じていると気付くはずです。

ビールメーカーも同じ状況にあります。あるとき、うちの研究所の若者がビールは嫌いだけど、オクトーバーフェスト(ドイツ発祥のビールの祭典)で世界のビールを飲み比べした写真をSNSに載せました。「本人は、おいしくないけれど、ビールのパッケージのデザインが良かったから写真を載せた」と言っていました。

後日、ビールメーカーの担当者に伝えたら、「いや、原田さん、それはあり得ない。嘘をつかれている」と言われました。その担当者は、「オクトーバーフェストという開放的な空間で飲んだから、いつもよりおいしく感じた、だから写真をSNSに投稿した」と信じたいからそう言ったのでしょう。

しかし、本人がおいしくないと言っているのだから、本当においしくはないのです。味よりも、インスタグラムに映えるという価値のほうが、その若者にとって大事だったというだけです。

この感覚は過去にはなかったものです。ですから、そのことを理解している企業は少なく、いつまでも味にこだわり、インスタグラムに載せたくなるようなパッケージにこだわったビールはなかなか出てきません。

モノが売れなくなったとはいえ、やりようはあります。例えば、「クルマは買わなくなった」と言われていますが、フェスには行っています。オクトーバーフェストやカラーラン(カラーパウダーを浴びながら走るイベント)など、ここ数年でコト消費はかなり増えています。

どの業界にも栄枯盛衰があるように、今の若者の動きに合わせてシフトしなければなりません。

失業率が40%を超えているヨーロッパの若者に流行っていることを聞くと、「流行りって何ですか?」と返ってきます。最近何を買ったのか聞くと、「半年前に大学でジュースを1本買った」と答えた子もいました。

それに比べると、日本の若者は実は裕福なのです。東京の大学生だと月に10万円弱、アルバイトで稼げます。実家住まいのパラサイト率も高い。毎月10万円弱も毎月使えるのはおそらく日本の学生だけでしょう。

つまり、日本の若者はお金を使わなくなったと言われていますが、世界的にみると異常にお金を使っています。奨学金をもらっている学生の割合が5割を超えて、返済はすごく大変なことでしょうが、米国の奨学金と比べると金額は少ないはずです。

そういう意味で考えると、本来は日本の若者をしっかり狙わないといけないのに、過去の成功体験にすがりついている企業が多く、若者向けのマーケティングが進んでいません。

■若者の過剰評価は禁物

――今の若者たちはシェアリングエコノミーにも興味があると言われていますが、この動きをどう見ていますか。

原田:シェアリングエコノミーに関しては懐疑的に見ています。大人が若者を理想視し過ぎていると思います。ミレニアル世代という言葉の普及の背景には、大人たちが理想視したことがあるのではないでしょうか。

なぜなら、ミレニアル世代は、ただ貧乏になっているだけという説もあります。車は欲しいけれど、高くて買えない。その結果、カーシェアリングが流行りました。つまりお金がないだけなのです。

あまり過剰に、シェアする行動を美化するのは良くないです。もちろんミレニアル世代は新しい可能性を秘めていると思いますが、若者たちが意図してそれを選択してはいません。大人が一方的に美談にしている傾向が強いということを認識してほしいです。

――米国のミレニアル世代の特徴として、社会問題への意識が高いと言われていますが、この見方については、どうお考えでしょうか。

原田:私は必ずしもミレニアル世代が社会問題への意識が高いとは思っていません。社会問題に関心が高い都市部に住む高学歴の若者はいますが、全体としては少ないと思っています。

日本は過剰にそうした見方を信じていますが、実際に米国の若者にインタビュー調査を行うと、本当はNGO/NPOよりグーグルやアップルに就職したかったという声をよく聞きます。

もちろん、一部にはNPOで働きたいと思っている人もいますが、多くの若者は経済的にそれどころではないのが現状です。

――日本では、東日本大震災を契機に、社会問題への意識を持つ若者が少しずつ増えたのではないでしょうか。

原田:少しずつ増えているのは事実だと思います。ですが、東日本大震災で若者の価値観が変わったというのは、大人が思い込みたい理想で、残念ながらぼくはそう思わないです。ただ、これは世界全体の若者に言えることですが、「優しい子たち」が増えてきたとは思います。

経済的に余裕はないのですが、いろいろな人たちの声をSNSで読むことができるので、自分だけ豊かになれば良いと考えたり、人を蹴落としてでも出世したいと考えたりする若者は少なくなってきています。

それ自体は悪いことではないですが、視野が狭くなってきていると感じます。米国のマンハッタンの富裕層の若者にインタビューをすると、少し前までは高級レストランでパーティーをしたという話を聞いていましたが、リーマンショック後は、人があまりいない場所で喫茶店を見つけたなど、日本の若者のように、身近な範囲で喜びを感じるようになっています。
スティーブ・ジョブスのように大儲けてしてやろうみたいなタイプは明らかに減っています。

悪く言えば、近視眼で粒が小さいと言えますが、現実的で地に足が着いているとも言えます。先ほどの社会問題への意識についても同じですが、過剰に今の時点でのミレニアル世代を評価することは良くないですが、ポテンシャルはすごく高いとは思います。

しかし、そのようなエシカルなマインドを持った層はマジョリティーにはならないでしょう。経済的にゆとりのある人ではないと社会貢献は続けられないからです。日々の生活で手いっぱいという人がこれからどんどん増えていくでしょう。

■変化の兆し2025年に

――近年、働き方改革が叫ばれていますが、今後の組織の在り方はワークライフバランスを重視した形に変わっていきそうですね。

原田:もうすでに変わっていると思います。40数年連続で少子化が進んだことで(出生数が減少に転じたのは1974年)、まだ有名企業は良いですが、多くの中小企業は採用が困難になっています。

かつては人口が少ない地域の若者が金の卵でしたが、今は全体の数が少ないので、自分の努力にかかわらず金の卵になっています。特に今はバブル期並みに、新卒の就職状況が良い中で、今の子たちは「ダメになった」とも思います。

――ダメになるとはどういうことでしょうか。

原田:仕事をさぼったり、いきがったりするようになったという意味ではありません。
ある程度、若いうちは厳しい状況を経験したほうが良いと思っていますが、今は競争もなく、楽に会社に入れます。

新卒の3割が3年で辞める割合に関しては、バブル期から変わっていないのですが、動機が異なります。バブルの頃は、「もっと良い会社はないか」というポジティブな理由で辞めていましたが、今の若者たちは「会社と合わないから」などの後ろ向きな理由で辞めていきます。

特にこの数年は、安易なきっかけで辞めている人が多いです。それでも、転職できてしまう。そういう意味で、若者に危機感がなくなり、失業率が40%を超えるヨーロッパの若者などには見られない傾向があります。

さらに、これは国民性の影響だと思いますが、SNSでより身内とつながったことで、「ムラ社会化」現象が起きています。そもそもSNSは、国や世代を越えて、いろいろな人とつながれるツールです。

しかし、日本の若者は知らない人とはつながりを持ちたがらず、知っている人だけで交流するようになっています。その結果、つながっていない人には関心を持たなくなります。例えば、高校の友達がバンドをやっていたらそのライブチケットは買いますが、誰か知らない人が困っていても、その人のためにわざわざ何かを買ってあげることはしなくなるでしょう。

―― 一方で、社会問題の解決を志す社会起業家もミレニアル世代から生まれています。

原田:社会起業家がアイコンとして、メディアに出ることは10年前にはなかったことです。2025年には、団塊世代が引退し、団塊ジュニアに世代交代します。団塊ジュニア世代に象徴的な社会起業家が多いので、だいぶ社会が変わると思います。変化は2025年に起きると予測しています。

原田曜平:
1977年、東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。専門は日本及び中国、アジアの若者研究とマーケティング。著書に『ヤンキー経済』『さとり世代』ほか。日本テレビ「ZIP!」、TBS「情報7days」レギュラー。

■この記事は雑誌「オルタナ」50号(9月末発行)から転載。50号では「ミレニアル世代の消費傾向」を分析しました。


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