人体に影響が少ないとされ、殺虫性が強いことから魔法の新農薬と呼ばれた「ネオニコチノイド系農薬」。しかし、近年ミツバチの大量死、幼児の発達障害を招くことが懸念されている。ネオニコチノイドとは、クロロニコチニル系殺虫剤の総称を指す。



2011年11月12日、都内で開催されたネオニコチノイド系農薬国際市民セミナー「ミツバチ・生態系・子どもたちを守るために」で講演した黒田洋一郎氏(脳神経学者・元東京都神経科学研究所)は、子どもの脳の発達にネオニコチノイドが影響を及ぼすと発表した。

日本は米国の7倍の使用量


黒田氏は「ヒトと昆虫の神経系は基本的に同じ。ヒトに完全に無害である殺虫剤は存在しない。不完全な毒性試験で認可して、健康被害が発生すると、別の農薬を売り出すのが農薬の歴史である」と痛烈に批判した。

兵庫県立大学自然・環境科学研究所の大谷剛氏が行った調査によると、ネオニコチノイドを投与したミツバチは、方向感覚を失ったり、帰巣できなくなったりするなど行動異常が現れた。

黒田氏は、人体被害の例も挙げた。茨城県では、2008年7月、ネオニコチノイド(ジノテフラン)の農薬空中散布により、女性が急性中毒で入院し、脈の変調、心臓異常、バランス感覚低下などを訴えたという。

日本国内でのネオニコチノイド系農薬の使用量は他国と比べても多い。単位面積あたりでは米国の7倍、フランスの2.5倍である(2002年 OECD調査)。また、国内出荷量は過去10年で3倍に増加している。

有機リン系農薬もADHDに影響


2010年、米ハーバード大学の研究チームは、低濃度の有機リン系農薬を摂取した子どもは注意欠陥、多動性障害(ADHD)になりやすいと米小児学会誌に公表した。

有機リン系農薬は日本国内でも広く使用されてきたが、毒性が強いため、ネオニコチノイド系農薬が90年代から主流になった。だが、殺虫成分の強いネオニコチノイド系農薬は、有機リン系農薬よりも膨大な被害を及ぼそうとしいる。

現在、カナダ、米国、中国、台湾、インド、ウルグアイ、ブラジル、オーストラリア、そして日本などで発生しているミツバチの大量死の主要原因として疑われている。

黒田氏は、「この農薬が与える健康被害のケースは、食品などからの内部被爆なので摂取量がわかりにくく、障害が起こっても因果関係が立証されにくい。農水省、農薬会社、農協の癒着で安全性の問題点が隠蔽されやすい」と、いかにしてこの農薬が守られているのか指摘する。

健康被害が出る度に新農薬に取り替えてきた農薬問題を根本的に見つめ直すべきタイミングが来たはずである。無農薬運動が広まりつつある昨今、貴重な他花受粉の役割を果たすミツバチが命をかけてそう示しているのではないだろうか。(オルタナS編集部=池田真隆)