クリスマスが近づき、きらきら輝くジュエリーが目立つこの時期。東京・南青山に店舗を構え、人・社会・自然環境に配慮した「エシカル(倫理的)ジュエリー」を制作・販売しているのがHASUNA(ハスナ)である。フェアトレード(公正貿易)素材の使用、プラチナやシルバーのリサイクルを使った商品開発を積極的に行う。
■ 先進国の消費の裏にある貧しさを知る
白木夏子代表(30)は、短大時代に、フォトジャーナリストの桃井和馬さんの講演を聞き、世界の危機的状況にショックを受けた。「迷いながら生きるのはもったいない。自分の命を困っている人や環境のために使おう」と、国際協力に目覚めたという。
すぐに、フィリピンのスモーキーマウンテンのスタディーツアーに参加し、ゴミの山で働く子どもたちや、そこで産まれて死んでいく人を見た。「私にできることは何だろう。まずは世界の中にある問題を理解したい」。そうして、単身でロンドンに渡り、発展途上国の開発について学んだ。
1年生の夏休みに、最貧困層が住む南インドへ2カ月滞在し、30以上の部落を回った。そこではカーストにも入っておらず、人から忌み嫌われる人たちが、娼婦や死体の処理などの仕事をしていたという。石を削って都会に運ぶ鉱山労働も行われており、そこでは先進国の私たちが使用している化粧品や、カメラのレンズに使われる鉱物が採れることを知った。
そこには夢も笑顔もない人たちの生活があった。「何もできない自分がつらい。先進国の1人としてできること。社会システムを変えなくては、貧困はなくならい」。そして24歳の時に、ベトナム・ハノイの国連人口基金でインターンを開始する。
国連機関で働きながら「どうして貧困はなくならいのか。援助で貧困は解決しないのではないか」という疑問がわき上がった。「一般の人を巻き込むにはどうしたらいいのか。お金、ビジネスだ」と気付く。
■「心のこもった」ジュエリーをビジネスに
そんな時、白木さんは、ベトナムでデザインが可愛いバッグに出合う。そのバッグを制作する香港のデザイナーは、援助ではなく楽しいからベトナムでモノ作りをしていると語った。白木さんはそこにビジネスの可能性を見い出したという。
2006年ビジネスを学ぶため日本に帰国し、投資ファンド事業会社へ就職した。2年間ビジネスを体に叩き込んだ。2008年に金融危機が訪れ、「次にどうしようか」と考え、様々なビシネスモデルを考えた結果、ジュエリーに辿りついた。学生時代にインドを訪れ、鉱山で働く人への忘れられない思いがあったからだという。
鉱山での労働環境を調べてみると、過酷な労働環境、児童労働、そして水銀による環境、人体への悪影響が明らかになった。ジュエリー生産の裏側には、労働搾取と環境汚染の深刻な問題があるにもかかわらず、日本でこの問題は、あまり取り上げられず、問題視されていなかった。
そこで「自分にしかできない」と思い、エシカルジュエリーの事業を決めた。ファッションデザイナーの母の影響もあったが、ジュエリーが「心のこもった」プロダクトであり、自身もジュエリーが好きなこともあって、この事業に決めたという。2009年4月、当事27歳だった白木代表は、株式会社HASUNAを立ち上げた。
HASUNAの社名は、淀んだ川で咲き、泥を浄化する美しい「蓮」の花の名から付けた。HASUNAも貧困などの問題を浄化しながら、ジュエリーだけでなく、世界中の人の笑顔を輝かせることを目指している。
■ 10カ国から素材を買い付け
HASUNAは現在、南青山の直営店のほか、東京、大阪、山梨に1店舗ずつ取扱店がある。商品はオンラインでも購入することができる。
プロダクトラインは2つあり、1つは、フェアトレードアクセサリー(ベリーズ、ルワンダ、ミクロネシアコレクションがある)。もう1つは、ウェディングジュエリー。現在は全部で約10カ国のパートナー団体から素材を買い付けている。人や環境に配慮した素材の開発や、プラチナ・シルバーのリサイクルも行っている。
■ 復興支援の限定リングも販売
クリスマス限定のチャリティピンキーリングも販売している。幸せが宿るよう繭(まゆ)をイメージしてデザインされた、やわらかい雰囲気のリング「チャリティピンキーリング」(税込18900円)。このリング1本につき3000円が東日本大震災の被害にあった宮城県のコラボスクール「女川向学館」の教材費に充てられる。
3.11後、日本の消費者のマインドに大きな変化があった。被災地への「応援消費」など、消費者が「絆」を意識するようになり、商品を買う時に、その背景にある生産過程やストーリーを気にする消費者が増えたという。震災後の初のクリスマス、日本の消費者にエシカルジュエリーの輝きはどう映るのか。(オルタナS特派員=加藤梨沙)
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