「東京電力福島第一原子力発電所の事故は人権問題である」として、法律家、研究者、ジャーナリストらから成る国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)(東京・台東)は、福島のモニタリング調査や政策提言などを行っている。12日には、HRNと東京大学原発災害支援フォーラムがシンポジウム「2011 東日本大震災を受けて福島原発事故後の人権を考える」を開催した。

イベントには学者や法律家、NGO関係者が多く集まった


HRNは、放射能汚染被害にあっている福島原発周辺の人々、特に放射能の影響を受けやすい妊婦、子どもらが「健康に生きる権利」(憲法25条)の危機にあるとする。

HRNの後藤弘子副理事長は「原発問題は社会問題で、加害者は東京電力であり、国である。それにもかかわらず、個人の問題にすり替えられている」と指摘した。国からは安全を前提とされているため、安全かどうか疑う自由さえないとする。

■除染作業は町内会やPTA任せ 

HRNは、11月に福島市と郡山市で調査を行ったところ、現在も放射能が出ているが、新学期に行われた健康診断では放射能検査は含まれていなかった。学校での放射能の危険性についての教育も進んでいない。

除染作業も、機器を町内会が購入し、十分な知識もないまま町内会やPTAに作業を任せる状態である。高校に至っては、小中学校と比べて除染作業が全く進んでいないという。

避難したくてもできない人もいる。障がい児は避難先を見つけることが困難な状況にある。福島から避難して来たということで、子どもたちが避難先で嫌がらせを受けるのではないかという不安もある。

HRNは8月に政府と東京電力に意見書を提出し、自然放射線を除く年間被ばく量が1ミリシーベルトを超えるすべての地域に対して以下の責任を果たすように求めた。

1)国際基準およびチェルノブイリ原発事故後の汚染区域の設定に基づき、住民の健康を保護し、住環境を取り戻すためのすべての必要な措置をとること

2)地域の住民に発生した損害に対して補償措置を行い、避難により生活基盤を奪われた人々に対し、包括的な生活再建を保証すること

3)放射線汚染の恒常的モニタリングと住民への開示、一刻も早い除染による以前の状態への回復、放射線防護、食糧供給、内部被ばくを含む長期的な健康影響調査・医療保障などの措置を講じ、人々を放射線被害から守ること

4)汚染の実態に即した避難地域の再検討を行うこと

■ 福島には「避難の権利」がない

国際放射線防護委員会では、公衆被ばくの実効線量限度を年間1ミリシーベルトとしている。同委員会は3月に福島第一原発事故に関して「年間1~20ミリシーベルトの範囲の目標値を選択し、長期目標として目標値を年間1ミリシーベルトとすること」と勧告した。

だが、HRNは、「この基準は、あらゆる放射線防護策を講じることを前提としている。20ミリシーベルトまでであれば、政府が健康保護のための措置や補償を行わなくて良いと勧告しているものではない」としている。

チェルノブイリの事故では、年間放射線量が5ミリシーベルト以上の地域を避難すべき地域として、移住の支援や補償、生活支援を行った。

年間1ミリシーベルト以上の地域については住民に「避難の権利」を認めた。移住を希望する住民には移住支援、補償、生活支援を行った。土地に留まることに決めた住民には、汚染されていない食糧の供給や医療支援を講じた。

日本では年間20ミリシーベルトを上限と設定している。しかし、12月8日に福島県郡山市が行った、市内小中学生25551人を対象にした被ばく量調査では、平均で120マイクロシーベルトを受けていることが発覚し、年間被ばく量は1ミリシーベルトを超すと推計される。

「自主避難に任せるという状態は、旧ソ連の施策をも下回っている」とHRNは訴える。

■ 反応鈍い世界の人権擁護団体

一方、日本に支部を置く他の国際人権擁護団体の反応はどうか。アムネスティ・インターナショナル日本、ヒューマン・ライツ・ウォッチ東京オフィス、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに取材をしたところ、いずれも「話し合いを進めている最中」として、具体的な動きはなかった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの土井香苗・日本代表は「私たちの団体は紛争や貧困のレベルが高い世界90カ国を監視対象としていて、日本は入っていない。福島から具体的な提案や対応を求める声があがっていないことや、放射能という専門性を要する問題なので慎重になっている」と話す。

HRNの阿部浩己理事長は「これからは福島に住む人たちの人権を軸にした政策や秩序作りをしていかなければいけない」とする。さらに現地のヒアリングや、政府への提言を積極的に行っていく考えだ。(オルタナS特派員=池田真隆)


ヒューマンライツ・ナウ