タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆原発2

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崖の下の海で何が起きているか知りたくもなかったが、右手の山側の土手の墓地では墓石が殆ど倒れ、斜めになっている大きく古い墓石が今、倒れた。道には山側から土砂が所々崩れ落ちて、対向車線を埋めていた。先へ行けば行くほど土砂量は多くなっていった。対向車も後続車も、もちろん先行車だっていない。不安は心臓の鼓動となって、締め切った車内に響いているようだった。握りしめるステアリングの手には冷や汗がにじみ出ていた。無理しても走り抜けようか、それとも引き返そうか。速度を緩めたり、速めたりして考えた。
主の祈りを唱えた。
Our Father, Who art in heaven
Hallowed be Thy Name;
Thy kingdom come,
Thy will be done,
on earth as it is in heaven.

天にまします 我らの父よ

願わくば 御名(みな)をあがめさせたまえ

御国(みくに)を来たらせたまえ

御心(みこころ)の天になるごとく 地にもなさせたまえ

それからは、あゝ、分からなくなってしまった。
「神様、前に行くべきでしょうか、引き返すべきでしょうか」。
迷う事はなかった。迷えなかったのだ。直径が一メートルを越すような岩が二つ、道を塞いでいた。ブレーキを思い切り踏んだ。

車は路上の泥を滑りながら、テールを振って後ろ前になった。リズは夢中でアクセルをふかし、車はそのまま今来た道を引き返した。
土砂を縫いながら走ると、やがてあの丘の上に戻った。ウインドウを開けた。サイレンがけたたましくなっていた。
遠くでスピーカーが何か怒鳴っているが、意味が良く分からない。冷静になろう。再び丘の草原に車を停めて外に出てみた。原発プラントは足元が少し壊れていたようだが、そのまま建っていた。「リズ、冷静になって」自分に言いきかせた。

地面が揺れた。しかし前の揺れよりだいぶ小さかった。波は建材や小舟たちを連れて冲に引いてゆく。押し寄せる時より引き足の方が速いようだ。まさかもう津波は来ないだろう。先にいけないのなら自宅に戻るしかないとリズは思うと車を丘の下に向けた。何台かの車とすれ違ったが、その人々の形相から、ただならぬ気配が感じ取れた。丘を降りて細い山道を登るとリズの古民家が見えてきた。

昔の炭焼き業者の家だったその家は集落から一軒だけ離れた里山の中に建っていた。瓦がずいぶん落ちて土がむき出しになって、禿げたところが生焼けのクッキーのような色になっていた。柱が斜めになって家全体が横から押されたマッチ箱のように傾いていた。雨戸が外れて柿の木に寄りかかっていた。
危険で入れなかった。

文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。

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