東京の離島・神津島(こうづしま)では漁業協同組合が漁業の魅力や魚の美味しさを発信している。ホームページ「島結び」(http://jf-kouzushima.jp/)では、島で捕れる魚の図鑑や漁師の暮らしや仕事を紹介している。また、飲食店への魚の直販やツイッターでの消費者との交流など、新たな挑戦を始めた。公募によって選ばれ、神津島に派遣された特派員の体験レポートをシリーズでお届けする。(編集担当:オルタナS特派員 殿塚建吾 猪鹿倉陽子)
「島結び」サイト紹介記事はこちら:http://alternas.jp/uncategorized/2011/12/12403.html
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農林漁業の中でも、若者、後継者の取り組みに以前から関心を寄せてきました。昨今、農業の分野では、Iターンや山村留学、農業での起業など若者の取り組みが注目されています。それでは漁業はどうなっているのでしょうか。神津島の漁業のこれからを担っていく若手漁師からお話を伺ってきました。
■島の若手漁師、浜川三兄弟が取り組む「直販」
神津島の漁師は一人ひとり様々な個性がありますが、なかでも取り組みの斬新さでひときわ目を引く漁師たちがいます。浜川三兄弟とよばれる30代前半の漁師三人組です。
三兄弟といっても、苗字が一緒なだけで血のつながりはなく本当の兄弟ではありません。それでも、3人は幼馴染であり、ともに漁師を生業としてきた仲。その絆は実の兄弟以上のようでもあります。
そんな3人が取り組んでいるのは、魚の直販。東京の居酒屋に直接販売するというものです。従来、魚はすべて仲買人が競り落とし、業者が築地などの卸売市場に販売してきました。この販売方法には捕れた魚を一括で売ることができるというメリットがある一方、いくつもの仲介業者を通して販売されるため、消費者価格が上がってしまうというデメリットもあります。「漁師にとっても、消費者にとってもウインウインの関係を作りたい」という想いで模索された新たな方法が「直販」だったのです。
■秘訣は「こだわりの居酒屋」に販売すること
今まで、魚の直販は困難だとされてきました。なぜなら一般的な消費者にとって、魚は“切り身で購入するもの”。しかし、漁をすることが仕事である漁師にとって、加工まで手がけるのは時間的にかなり困難。また、捕れる魚の種類も、量も、実際に出漁してみないと分かりません。魚の直販をするためには、そういった漁業の特性を理解してくれる販売先が必要でした。
そのなかで3人が販売先として注目したのは魚の品質にこだわりをもつ居酒屋。居酒屋ならば魚をまるごと買い取ってくれるし、魚の種類に応じて料理を作ることもできます。この着眼点が当たり、現在徐々に居酒屋との取引を開始。取引が始まれば、さすがは品質の高さで有名な神津島の魚。キンメ、メダイ、ムツ、イカ…。どの魚も居酒屋からの評判は上々だとのこと。
「どんな魚がどれだけ捕れたか」という居酒屋との綿密なコミュニケーションを大切にし、魚を丁寧に扱い、品質を高く保つ三兄弟の努力のたまものです。こんな話を聞かされてしまえば、神津島の魚を扱う居酒屋に一度は足を運んでみたくなるというもの。なるほど、「島結び」で紹介されている「神津島の魚はここで食え」にはそういう狙いがあったのですね。
■子供の頃からの夢、ホストからの転職。三兄弟が漁師になるまでの道のり
そんな浜川三兄弟ですが、漁師にいたるまでの道のりは様々です。子供の時から漁師になることを決めていたというのは一生さん。当初は親の反対があったそうですが、熱意で漁師になるという夢を押し通しました。経験も長いだけあって、漁の腕は一番です。
対して光一郎さんと聖人さんは、他の仕事を長年経験してきたのち、島に戻り漁師になりました。光一郎さんはなんと、東京でホストをしていたのだといいます。さまざまな経験の組み合わせが、新しい発想につながっているのかもしれません。
直販の取り組みはまだまだ始まったばかりです。新たな発想は、これからいっそう広がっていくものと思います。
■インタビューを終えて 若手漁師の頑張りに未来が見えた神津島の漁業
漁業は全国的に、後継者が十分いるとはいえない状況にあります。若手がほとんどいない漁協もあるといいます。若手が新しい風を呼び込んでいる神津島は、それだけで注目に値する島だということができると思います。
若手漁師の新しい取り組みは漁業全体においても励みになるでしょうし、魚の産地ごとに個性的な取り組みが行われることによって、消費者の選択肢も広がると思います。それが漁業全体の活性化につながるのではないかと、力強く頑張る神津島の若手漁師をみて、漁業のこれからに明るさを感じました。今後も、神津島の漁業の動向に注目していきたいです。(寄稿 「島結び」神津島特派員 岡田 航)
プロフィール:
岡田 航 (おかだ わたる)
東京大学大学院新領域創成科学研究科修士1年。フィールドワークを通じて農山村漁村を研究中。以前から地域の生業に関心があり、これまでも全国の地域を巡って地域住民の話しを聞くと同時に農業や林業の手伝い経験。漁業にも関心はあったが、今まで関わることがほとんどなかったため、今回の企画に参加。