東京の離島・神津島(こうづしま)では漁業協同組合が漁業の魅力や魚の美味しさを発信している。ホームページ「島結び」(http://jf-kouzushima.jp/)では、島で捕れる魚の図鑑や漁師の暮らしや仕事を紹介している。また、飲食店への魚の直販やツイッターでの消費者との交流など、新たな挑戦を始めた。公募によって選ばれ、神津島に派遣された特派員の体験レポートをシリーズでお届けする。(編集担当:オルタナS特派員 殿塚建吾 猪鹿倉陽子)

「島結び」サイト紹介記事はこちら:http://alternas.jp/uncategorized/2011/12/12403.html

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前回は漁業の抱える問題と、それを見据え、島の将来を切り開こうと奮闘する島の若手漁師の話を取り上げました。では、同じ一次産業である農業は、今どのようになっているのでしょうか。離島ということで、直面する課題には似たようなものがあるかもしれない…。そう考え、神津島でパッションフルーツ栽培に取り組む清水靖男さんにお話を伺いました。

みずみずしいパッションフルーツの実


■島の農業に工夫は不可欠。少量多品種で販路を拡大



「農業はどんな作物でも作れる。それが面白いんです」。清水さんはそう前のめりの姿勢を見せます。

島のほとんどは急峻で、平地が少なく、台風も多い。本土に出荷するためには船で運搬しなければならない。農業をする条件は決してよいとはいえない中、清水さんは農業にこだわってきました。

「島で農業をするには、ただ普通に農業をやっているだけでは駄目だ」。不利な条件を克服するためにできることは、付加価値をつけること、温暖な島の気候を活かすこと。そのために試行錯誤も繰り返しました。当初目をつけたのは切り花と球根。そのなかでも、清水さんは、栽培する品種に人一倍のポリシーをもってきました。

「いくつもの園芸会社からカタログを取り寄せて、面白そうな品種があったら小さい養成球根を注文するんです。それを畑で大きく育てて、開花球根にし、切り花にして出荷するのです。球根は分球するから自分で増やせるので、どんどん増やして出荷していました」。イキシア、ベラドンナリリー、アマクリナム・・・少量多品種で販路を広げていったそうです。

■時代を読んだパッションフルーツ販売。ジャムへの加工も開始。

そんな清水さんがパッションフルーツ栽培を本格的に始めたのは5年前。理由は切り花・球根価格の下落。輸入品の台頭により、価格競争にさらされることが原因だと言います。

農業を続けていくためには、時代の流れを読み、新しい挑戦を続けていくことが肝要。パッションフルーツに注目したのも、地球温暖化を好機と捉えたからです。

「神津島のパッションフルーツは他で作ったものよりおいしいんですよ。他の島で作るとすっぱいのに、神津のは甘い。色や香りも違う。土がパッションフルーツを育てるのに合っているのかもしれませんね」。島の農家に声をかけ、6件の農家で本格的に栽培を開始。今では島の直売所や港の土産物屋で販売しているほか、本土にも出荷しています。

清水さんの工夫はそれだけにとどまりません。パッションフルーツをジャムに加工し、販売することも始めました。加工の担当は清水さんのお嬢さん。「将来的には商品のレパートリーを増やし、販売規模も拡大していきたい」とお二人は目を輝かせながら話してくれました。取材中、クラッカーにつけたジャムを試食させていただきましたが、甘酸っぱくて、とても美味しかったです。

甘酸っぱくておいしいパッションフルーツのジャム。売れ行きは上々だという


■ゼリーの製造に、ふるさと宅急便。夢が広がる他産業とのコラボ。

他業種との連携にも意欲を見せる


さらに清水さんは漁業など、島の他の産業との連携にも意欲をみせます。

「例えば島の天草とパッションフルーツと名水を組み合わせて、パッションゼリーのような新しいお菓子が作れないかと考えているんですよ。先日試作をして、中々の出来でした。きちんと製造ルートを整えて商品化できれば、神津島の新たな特産品になるはずです。ジャムは伊豆諸島のほかの島にもありますが、ゼリーはありませんから」。

神津島のところてんは、黒潮が流入する神津島の海が育んだ天草として、国内最高級品質と謳われています。そこに神津島の土が育んだ瑞々しいパッションフルーツが加われば、確かに島の名物となる商品が生まれるかもしれません。

「それに、神津島の野菜と魚をセットにして直販する、『ふるさと宅急便』なんていうのもいいんじゃないかな。漁協と農協とが協力体制を築いて取り組めば、販路が増えるかもしれない。飲食店にもニーズがあるのか、聞いてみたいですね。一般消費者に近い飲食店の方にどんな商品があればいいか教えてもらい、それに合わせて生産や開発をしていくような、二人三脚の取り組みができれば嬉しいです」。

■インタビューを終えて たくましさを感じた生産者の姿
前回、若手を中心とした神津島の直販の取り組みを紹介した通り、漁協でもちょうど販路の拡大を模索している真っ只中。飲食店の方とのやりとりの中で、「魚だけではなく野菜や果物も送ってくれたら、“神津島フェア”ができて面白いなぁ」という声もあがっているとのこと。

漁協と農協、組織が異なることによる難しさもあるのかもしれません。ただ、そうした飲食店のニーズに対して上手に協力体制が築ければ、お互いにとってメリットを発揮していけるのではないか、そう感じたのも事実です。例えば、離島が直販に乗り出す場合に必ず直面する「輸送費」が半分ずつですみ、コストカットにもつながるかもしれない。

神津島にふれて感じたことは生産者の方々の生業を営む力強さです。それは、私が今まで関わらせていたいただいた農山村でも同様に感じられました。そうした力強さは、現場から離れたところからでは分からないことかもしれません。今、「農山漁村」というと、過疎化や高齢化など、ときにネガティブな言葉で語られることがあります。

しかし現場を歩き、地域の方々からお話を伺うと、客観的なデータでは捉えられない別の姿が見えてくることに気づかされました。自然の厳しさを受け入れながらも、自然の恵みを生かし、島の将来を切り開いていこうとする、たくましい生産者の姿がそこにはありました。

農業と漁業のコラボレーションは、神津島の物産の可能性を広げることになると思います。コラボレーションがつまった一皿。そんな一皿に舌鼓打てることを、今から秘かに楽しみにしています。(寄稿 「島結び」神津島特派員 岡田 航)

プロフィール:
岡田 航 (おかだ わたる)
東京大学大学院新領域創成科学研究科修士1年。フィールドワークを通じて農山村漁村を研究中。以前から地域の生業に関心があり、これまでも全国の地域を巡って地域住民の話しを聞くと同時に農業や林業の手伝い経験。漁業にも関心はあったが、今まで関わることがほとんどなかったため、今回の企画に参加。