麻布十番駅から徒歩10分。静かな住宅地に佇む「元麻布農園」は農家さん付きのシェアハウスだ。2011年にオープンし、10人ほどが住んでいる。建物の前には農園があり、毎週農家さんが来てワークショップを行なったり、レンタル農園としても利用されたりしている。
高級住宅街に農園?と驚く人も多いだろう。運営する株式会社スローライフの代表・片岡義隆さんはもともと千葉に畑を借りて通っていたが、都心でもできないかと考えるようになったという。東京には美味しいものも洋服も何でも手に入るが、土をいじる場がないことに気づき、「港区にもっと土をいじる空間をつくりたい。それも生産者とつながりを持てるような場を」という思いから元麻布農園は誕生した。
ここの最大の特徴は”農家さん付き”。月に二度開かれる有機野菜を育てるワークショップでは、新潟から大越農園の大越正章さんが来て教えてくれる。東京へ通うことについては「はじめは大変かなと思ったけれど、同時にチャンスでもあると思った」と大越さん。農家にとって、消費者の声が聞けることは大切だという。例えば「お米は1キロずつ小分けに売ってもらえると買いやすい」という意見を受け実践したところ、売上が上がったそうだ。
生産者側にとっては、半年間のワークショップを通して信頼が深まることが大切だという。「食の安心や安全は信頼から生まれ、また地方と都市をつなぐことにもなる。例えば住人の誰かに子どもが生まれたとして、子どもに畑や山や雪を見せたいと大越さんに頼むことができる。今は本当の田舎を持つ人が少なくなってきているから、そうしたつながりが大切になってくると思います」と片岡さんは言う。
生産者との交流、食の安心感、地方とのつながり。元麻布農園は、都市ではなかなか経験できないこれらのことを実現できる場だ。今後はさらに活動を広めていくようなので注目していきたい。(オルタナS 木村絵里)
■元麻布農園