5人組ヴォーカル・グループ「ゴスペラーズ」のメンバー北山陽一さん(38)。「環境goo」で連載するなど環境に対して意識が高く、音楽を通しての被災地支援も積極的に行う。北山さんは、「アカペラで一緒に歌うと、支援する側、される側の壁を取り払うことができる。ストレスや不安を抱える子どもたちの心もほぐれてくる」と語る。(聞き手・オルタナ編集部=赤坂祥彦、オルタナS特派員=内藤聡)

——去年の東日本大震災後、すぐに被災地支援活動を行いましたね。

北山:いてもたってもいられなくなって活動を始めました。震災直後だったので、とにかく何か物資を届けたいと思いました。ちょうどその時に友人から、「トラックが確保できた」という知らせを受けたので、急いでディスカウントストアに行き、大量の靴下やタオルを購入しました。

しかし、レジでけげんそうな顔をした店員さんからこう言われました。「このように大量に購入されるお客様は多くいらっしゃるのですが、今はまだ被災地へ物資を送れる状態ではありませんよ」と。

けれど、店員さんに事情を話すと表情が変わり、裏口で休んでいた店員さんにも声をかけて、購入した靴下などの箱詰めを手伝ってくださいました。

■アカペラでよそ者から仲間になれた

——現地では、子どもたちと一緒にアカペラを歌ったそうですね。

北山:後輩のアカペラグループと一緒に石巻市に行きました。そこでは、ジュニアリーダーという、地域の社会貢献活動をする中高生の子どもたちに集まってもらいました。

家が半壊した人、全壊した人、親戚を亡くした人、親兄弟を亡くした人、被害状況は様々でした。リーダーの女の子は両親を津波で亡くし、大きな地震が起きるたびにとても不安そうな様子を見せていました。

——皆さんでどんな歌を唄ったのでしょうか。

北山:「スタンド・バイ・ミー」(ベン・E・キング)と「ワインディング・ロード」(絢香×コブクロ)です。

歌が得意な子も、不得意な子もいたので、できるだけキャッチーで繰り返しが多く、簡単で短いものを選びました。

アカペラというのは、それぞれが異なる音域を担当して一つの歌を作り上げる共同作業です。一緒に作業をすることで、「支援する側」、「支援される側」の間にある線引きを消すことができます。

そして、歌うことは、人の気持ちを高揚させます。特別な技術も必要としません。震災発生から続く不安や緊張、家族や住まいを失ったストレスで凝り固まった子どもたちの心をほぐすために適したツールなのです。

ハーモニーは、人間関係が音になって表出するものです。そんな体験を共有することで、隣のクラスの彼とも、遠く離れた街のあの子とも仲間になれる。そんなことを夢見て一緒に歌いました。

実際、一緒に音楽を作ることで、よそ者から仲間になれた気がしました。仲間同志として自然と助け合えるようになりました。

——被災地で印象的だったことはありますか。

北山:アカペラを一緒に歌った子どもたちが、現地を案内してくれた時のことです。バスに子どもたちと一緒に乗りながら、車内ではたわいのない話をしていたのですが、あるとき運転手さんから「実際に降りてみますか」と言われました。

そして、実際に降りたのですが、そこでは自衛隊の方が並べた遺留品の数々が家の前に並べられていて、衝撃を受けました。子どもたちも一緒にいて、女の子はとてもショックを受けていたようで、今でも、降りたことを少し後悔しています。

■エコという概念は、みんなで考えるぼやっとしたものでいい

——北山さんは「環境goo」に連載を持ち、大学では環境について学ばれていました。現在の社会では「エコ」や「ロハス」、「スローライフ」など続々と「環境」についての言葉が生み出されています。

北山:私は自分の頭で考えることを意識し続けていきたいと思っています。ですので、現在の社会でよく言われている「エコ」や「ロハス」「スローライフ」などは正直ばからしいと思っています。言葉遊びに過ぎません。

そういった言葉は人の思考を停止させます。フレームワークを作ることで、安心しきってしまうのです。それはモノを売る側に都合がいいだけです。何が自然で、不自然か。そもそも、環境とは何か。そういう物の見方が必要だと常々、思っています。

——確かに、「『エコ』だから良い」という言い方は思考を停止させるかもしれません。

北山:枠組みを設けないことで、思考は深められます。エコという概念は誰かが用意したしっかりしたものよりも、みんなで考えるぼやっとしたものでいいと思います。

——昨年は、日本だけでなく、世界中が激震に襲われた時代でした。こういう時代を生きる若者にメッセージをいただけますか。

北山:自分の頭で考えること。そして、自分や社会、国という枠組みを俯瞰してみることですね。これだけ社会が混迷しているのに、30年前の大人が作った仕組みを信用しきるのは危険です。私は「Did You Know 2.0」という動画に注目しています。ぜひ今の若者に見て欲しいです。

——この時代、多くの人が安定的な生活を求めます。

巨大な船での航海は安定しているでしょう。一方、小船は常に波間を揺れながら進みます。でも、巨大船に乗っていると、それが沈みはじめているのに中々、気付くことはできません。どちらを選ぶかは個人の自由ですが、自分の人生なのだから、勇気を持って小舟で漕ぎ出す若者が増えて欲しいですね。


動画「Did you know 2.0」




北山陽一:
ヴォーカル・グループ「ゴスペラーズ」のメンバー。’94年12月、シングル「Promise」でメジャーデビュー。

以降、「永遠に」「ひとり」「星屑の街」「ミモザ」など、多数の代表曲を送り出す。

現在、環境gooでコラム「ぼんやり学会」を連載中。 http://eco.goo.ne.jp/life/mylife/



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