若者の政治離れが起きている昨今、ネット選挙運動解禁を求める「ONE VOICE CAMPAIGN(ワンボイスキャンペーン)」では、多くの若者の共感を獲得し、一夜にしてフェイスブックの「いいね」は1600を超えた。今までの政治に抱いていた堅苦しい印象とは違い、「政治をポップ」に見せるコンセプトでキャンペーンは行われている。いかにして、若者に政治をポップなものと思わせたのか、キャンペーンのコンセプトを構想した高木新平氏(24)にその背景を聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)
——今回のキャンペーンでは、公職選挙法の一部改正を目指していますが、それだけでなく若者の政治離れも防ぐ効果があると思います。今回のキャンペーンを通して高木さんが期待していることを教えてください。
高木:今回のキャンペーンでは、一人ひとりの声が届く仕組みづくり、より多くの人々の多様な政治参加のカタチを実現したいですね。インターネット選挙運動を解禁することはそのための第一歩です。
——なぜ、政治の分野に興味を持たれたのですか。
高木:政治が国の構造を規定しているからです。社会全体のことはどうしても政治じゃないと決められないことも多いじゃないですか。だから、ちゃんと向き合う必要があると思っています。
——どういった層に訴えていきたいと思っていますか。
高木:特に動かしたいのは、「政治ってなんか古いよね」とか「政治はもういいよ」と諦めている若者たちです。彼らの声を集めて、現状を実際に変えるという共体験をつくることで、若者と政治の関係性を変えていきたいのです。
■シンプルで誰にでも参加できる政治参加の形「ONE VOICE」
——堅苦しさや古くささなど、政治に対するネガティブイメージを持つ若者が多い中、今回はどのようにアプローチされたのでしょうか。
高木:キャンペーンそのものを、もっとポップなものにしようと思いました。公職選挙法云々…を前に出して、若者を遠ざけてしまうのではなく。例えば、ユニクロやH&Mなどのことを「fast fashion」と言いますが、そんな「気軽で、おしゃれ、流行っている感じ」の感覚で政治を捉えようと思いました。言うなれば、「fast politics」ですね。
そのため、キャンペーン名もキャッチーで分かりやすく、かつ、ついつい口ずさんだりしたくなるような言葉を考えました。この「ONE VOICE(ワンボイス)」というコピーは、もっともシンプルで誰にでもできる政治参加の形である「声をあげる」というアクションを促すものになっています。
さらに、一人一人の声が可視化され、つながっていくことで、それが1つの日本を変えるエネルギーになっていくだろうと思い、日本の国旗をイメージさせるデザインにしています。
——広報予算をかけなくても、一夜にしてフェイスブックの「いいね」は1600を超えました。ソーシャルメディアが発達した現代において、どのような広報戦力を取られたのでしょうか。
高木:戦略は、ないです。(笑)ちゃんとしたプレスリリースも出していません。ただ、ソーシャルメディアで呼びかけしただけです。ここまで動きが拡大したのは、元々世の中で「ネットが使えない選挙活動なんておかしい」という不満や変革欲求が潜在的にあったものに対して、キャッチーでわかりやすいコミュニケーションを仕掛けたからだと思います。
——そうだったのですか。ワンボイスキャンペーン実行委員会には、特定のリーダーは存在しないそうですね。
高木:いないですね。一人のリーダーがいて、変に組織化されていたら、判断やアクションのスピードも遅くなってしまいます。また、このキャンペーンは特定の誰かや団体の所有物ではなく、みんなで共有する運動体のようなものなので、変に枠組みを固定化してしまうと、つまんなくなっちゃうじゃないですか。専門性やスキルなど強みがある人が、それぞれ自発的に役割を担っていけばいいと思っています。
——組織の中で、リーダーを決めることや懸念点に対する議論などはなかったのですか。
高木:なかったですね。形態に囚われることなく、とにかく、物事を前に進めるために動き出していました。例えば、「ソーシャルメディア詳しいからアカウントの担当します」や「プログラミングできるのでシステム組みます」など、メンバーそれぞれが主体性をもって、積極的に動いています。むしろ、「ワンボイス」はオープンソースとして、それぞれの地方などへも波及していけばいいなと思っています。
——高木さんは、コンテクストデザイナーとして、ワンボイスキャンペーンのようなプロジェクトをディレクションされていますが、その際どのような視点を特に意識して考えていますか?
高木:大切にするのは、そこにある文脈(コンテクスト)です。どんなモノにも、作り手の想い、受け手のニーズ、可能にした技術、生まれた社会背景があるように複数の文脈がありますよね。それらを1つの文脈として整理することで、バラバラだったものにコンセプトが生まれます。いつも、それを見つけるように神経を尖らせています。そして、それをシンプルな言葉に落とした上で、コピーやデザインなどのイメージへと昇華させていくことで、新しく、人々の共感を生むコミュニケーションがつくれると思っています。
——現在、新たなコミュニティづくりや企業のブランディング、ウェブサービス開発など様々なプロジェクトを仕掛けられていますが、高木さんは今後、どのような活動をしていくおつもりでしょうか。
高木:その人やモノが持っている「らしさ」や「可能性」を顕在化させること、既存のイメージをつくり変えていくようなことをしていきたいです。その中でも、今は「生き方」に興味があります。既存の枠組みに縛られた選択肢だけではなく、「こういうのもありじゃない?」といった自由な選択肢をもてるようにしたいです。そして、多様性に満ちた、生きやすい社会になればいいなと思っています。
例えば今、「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」を創設した家入一真さんと共同で、新しいカタチの組織をつくっています。サラリーマンでも公務員でも学生でも、プロジェクト単位でメンバーとして集まり、各々の専門性を生かしてサービスをつくっていく。利益はメンバーで分配し、また異なるテーマ・メンバーで別のプロジェクトを立ち上げていくリベラルな組織です。これも働き方・生き方の1つの選択肢として、人々のイメージを拡張させていく、僕なりの挑戦です。
領域やテーマに囚われることなく、様々な角度から、自由な発想を世の中に提示していきたいと思っています。それを止めてしまうと、なんのために僕は生きているのか、わからなくなっちゃうので(笑)。
高木 新平(たかぎ しんぺい)
1987年10月18日生/24歳/コンテクストデザイナー/ONE VOICE CAMPAIGNキャンペーンディレクターとして、若者を動かす政治キャンペーンを指揮。早稲田大学卒業後、博報堂入社。わずか1年4ヶ月で独立。個人で、企業や学校などのブランディングを行う。「トーキョーよるヒルズ」という新たなライフスタイルを実践するシェアハウスを立ち上げ、編集長として活躍。また、新しい組織のカタチを家入一真氏とともに立ち上げ中。その他、現代ビジネス「21世紀の生き方」のプロデューサー、死後に人の想いを届けるウェブサービス「Living」ディレクター、TRYF Inc.CCOなど、領域をまたいで幅広く活動を展開している。※個人ブログ→『美味しいコンセプト』 http://shimpe1.com/ twitter:@Shimpe1
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