大津市で昨年10月、市立中学2年の男子生徒(当時13歳)が自殺した問題で、いじめとの関連性が浮上したため、社会に波紋が広がっている。大津市の越直美市長は10日、「いじめが自殺の原因である」と述べ、市教委も12日、いじめが自殺に関連していることを認めた。

写真:男子生徒が通っていたとされる中学校。大津県警は中学校教諭から聞き取り調査を行っている。


いじめが発生したとされるのは、2011年9月から。それまでは、自殺した男子生徒と加害者とみられる数人の男子生徒はお互いの家に泊まるなど仲の良い友達だったという。

2学期が始まった9月に関係の変化が起きる。トイレでの暴行や、体育祭中、粘着テープで手足を縛られ、暴行を加えられ、蜂を食べさせられるなどのいじめを受ける。それから約2週間後、男子生徒は自宅マンションから自殺した。

自殺した生徒が自殺前に「もう死ぬ」と加害者にメールして、「死ねばいいや」と返信したやり取りがあったことや、男子生徒の部屋が荒らされていたことから、複数人の生徒から自殺前にも暴行を受けていた可能性が高いとされている。

市教委は自殺後に学校が実施した2回のアンケートをもとに、いじめがあったことを認めたが、当時は自殺との関連性は認めておらず、昨年11月に調査を終了した。

いじめの実態を示唆した6割弱にあたる無記名回答の追跡調査を行わずに、3週間で調査を打ち切ったことや、自殺した生徒が「自殺の練習をさせられていた」とする回答を公表しなかった市教委には、事態が発覚した7月4日から3日間で2000件の講義電話やメールが送られている。市教委は、「(いじめを示唆する回答には)気づかなかった」と答えている。

自殺した生徒の父親は昨年10月から12月にかけて、滋賀県大津署に被害届を3回提出していた。しかし、3回とも受理されなかった。福永正行副署長は、「遺書がないため、犯罪として認めることが困難」と話している。

これを受けて、遺族側は大津市や加害生徒の保護者らを相手に損害賠償請求訴訟を起こした。「被害届は厳密に書かないといけないものではない。不明な点を捜査してほしいから被害届を出そうとしたのに、『立件できる見込みがないから捜査できない』というようなもので本末転倒だ」と遺族側の代理人は述べている。

今年5月、損害賠償訴訟の答弁書には、市側が、「教員の誰が、いつ、どこで、いかなるいじめを受けたのかを目撃した証拠」を示すように要求した。学校内部の情報は、普段学校にいない保護者が特定することは困難であるとして、遺族側は反発していた。

当初から、男子生徒の自殺がいじめと関連していると捉え、市教委の対応を批判していた大津市の越直美市長は、遺族との和解を表明している。しかし、いまだ市教委は遺族側と争う姿勢を崩さない。

今月13日、大津市の沢村憲次教育長は損害賠償請求を続けたいと話している。「調査が不十分とはいえ、一定の調査を学校は行っている。全てを明らかにするためにも裁判は続けたい」と話した。

生徒が通っていた中学校や加害少年の実名などが明らかにされてしまう事件も起きた。タレントのデビ夫人が自身のブログで、加害少年や保護者の素性を明らかにする内容を書き、フジテレビ系番組「とくダネ!」では、いじめたとされている加害少年の名前を伏せて公開した資料に、加工がされておらず、一部透けて放送された。インターネット上では、実名や写真が出回り、騒ぎは過熱している。

現在、大津県警は男子生徒が通っていた中学校の教諭を対象にした事情聴取を始めている。今後は生徒や卒業生らからも聞き取りを行う方針である。また、大津市議会は「いじめ防止条例」の制定を目指すことを決定した。13日の議会運営委員会で、議員提案に向けた政策検討会議を設ける。(オルタナS副編集長=池田真隆)