山本恭輔さん


「presentation」。それは、時に、人に感動を届けるパフォーマンスでもある。プレゼンテーションはスキルではない、情熱があれば伝わる。それを私に教えてくれたのは、たった14歳の中学生の少年だった。

プレゼンテーション、略してプレゼン。この言葉は、おそらく誰もが聞いたことがあるだろう。そして、そのプレゼンテーションを披露する場もたくさん存在する。例えば、TED。TEDとは世界の叡智が講演をおこなう極上のカンファレンスのこと。様々な分野で活躍している人達の講演・プレゼンを聞ける場。



そのTEDをプレゼンの教材としてアメリカで教育の分野で活用されるようになってきた。そしてとうとうNHKで2012年4月から放送されるようになった。

そこで、TEDを教材としたこの番組(NHK)の宣伝のイベントが開かれることになった。抽選の上、当選した何人かがプレゼンをできるという機会が儲けられ、そこには8人の登壇者がいた。

ちなみに、聴衆は、TEDの関係者や慶応義塾大学の井庭先生などそうそうたるメンバーで、8人のプレゼンの登壇者も東大に通っている人や起業している者など様々など様々なメンバーであった。そこに、なんと中学2年生の少年もいた。

そう。彼こそが、今回のインタビューの主役である「山本恭輔君」だ。

このイベントは、抽選制で、水曜日に当選結果がでて、日曜日にイベントという超タイトなスケジューリングであった。

ちなみに、プレゼンも英語。そんな中彼は、8人の登壇者の中でただ一人観客からスタンディングオベーションを貰うことになる。それも聴衆にTED Main役員のDeron Triff氏やプレゼンの神様のガーレイノルズ氏という著名人がいる中で…

そんな彼に当日のことを振り返ってもらった。

当日の様子


——まずは、このイベントを振り返ってどうですか。

自分の想いが伝わったなぁという感じです。どういう場面で感じたかというと、プレゼンの最中に、オーディエンスの反応をじかに感じる事が出来たときや、プレゼンが終わった時にスタンディングオベーションを頂いた瞬間です。最高に嬉しかったです。また、プレゼンの後の懇親会でも、それは感じます。例えば、自分のプレゼンでは僕の身体を40%のサイズにコピーした造形を使うのですが、「それを見せて欲しい」、とか言われたりすると、興味を持ってもらえたんだなぁと感じます。やっぱり自分の想いが伝わると嬉しいです。

山本君の身体を40%のサイズにコピーした造形。彼はこれを手に持ってプレゼンを行う


——もともと山本君は人前に出ることや何かすることが好きだったのですか。

■実は人前で何かすることって苦手だった

僕は、もともと人前でプレゼンをするなんて考えられませんでした。
例えば、主役よりも脇で支える立場の方が好きだし、何かクラスで催しものをする時も音響や裏方をやっていました。基本的に、前へ前へって言うタイプではありませんでした。プレゼンを人前で行うようになったきっかけは、株式会社ワタミさんが主催の夢アワードというコンテストに出場したことです。夢アワードには選考があるのですが、その一次選考を運良く通過でき、二次選考で5分間のプレゼンテーションをすることになりました。これが、学校の外で行った初めてのプレゼンです。その後、結果的にファイナルまで残ることができ、多くの人の前でプレゼンをすることができました。

——そうなんですね。でも今回は日本語ではなく英語でプレゼンを多くの人前ですることは、初めての試みだったわけで、しかも日程的にも3日もなかった。そんな中で何が山本君を動かしたのですか。

■TEDのMainから来るDeron Triff氏に僕の想いを伝えたかった

TEDのDeron Triff氏に僕の想いをどうしても伝えたかったのです。この想いがあったからこそ英語でプレゼンをすることにこだわりました。ちなみに英語に関しては、学校で英語を使ったプレゼンテーションや劇を少ししたことがあったので、自分の中では、なんとかなるという勝算がありました。でも一方で、母や先生を含め周りの人は、英語でのプレゼンには大反対だったんですよ。「英語でプレゼンなんて無理だ」ってね。だから説得するのが難しかったですね(笑)

——では、英語でプレゼンをする上で一番難しかったことを教えてください。

言語の難しさを痛感しました。というのは、夢アワードのプレゼン資料を自分で英語化して、学校の英語の先生や、塾の英語の先生に添削して貰ったのですが、僕の日本語のプレゼンをそのまま英語化すると、『I~』が多くなってしまうと指摘されました。僕がこれは~、僕が何~みたいに、ただの報告会みたいになり、聴衆からしたら、つまらないプレゼンになってしまうのです。

先生や周りの人から「これじゃだめ!」と言われました。だって押しつけのプレゼンになってしまうから。だから何度も原稿を書き直しました。

実は金曜日は校外学習で、丸一日何もできなかったんですよ(笑)。だから実質、英語のプレゼンを準備して、練習したのは、木曜日だけ。それも、学校から帰って宿題が終わった後のことで。土曜日は、スライド作りに追われていました。ちなみに、この超タイトなスケジューリングは、当然僕だけじゃなかったので、他の登壇者の方も、「いつスライド作った?」「3日じゃ無理っしょー」みたいな会話が、当日登壇者同士で交わされていました(笑)

——そんなばたばたしている中当日は緊張しなかったのですか。

■観客に自分の師である杉本先生と、プレゼンの神様であるGarr Reynolds先生

『プレゼンを楽しめ (enjoy)』。この言葉に勇気を貰ったので、あまり緊張することなくプレゼンをすることができました。この言葉は前日、杉本先生から頂いた言葉です。この言葉が僕自身を奮い立ててくれました。杉本先生は、僕が興味を持った造形技術を開発された神戸大学の先生で、僕の身体を造形してくださったり、僕の学校にも、講演に来てくださいました。医療の世界におけるプレゼンテーションの重要性を発信することもされており、僕にたくさんのことを教えてくださった方です。そんな杉本先生からお言葉を頂いたので、なんとかやりきることができました。プレゼンを楽しむことって、すごい大事だと僕は思います。というのは、当日母が見にきてくれたのですが、プレゼン終了後に僕にこう言いました。

「プレゼンしていく中で、徐々に表情が変化してたよね(笑)」

これってどういうことかと言うと、おそらく僕は、生まれて初めての英語のプレゼンテーションだったので、スタートはかなり緊張していたようなんです。でも、徐々に会場で笑いが起きたり、聴衆が盛り上げてくれる中で、僕の表情がどんどん変わっていったらしいのです。これは、プレゼンを楽しんでいく中で、何か分からないけれど感じる物が合ったのだと思います。そして僕自身が楽しめたことで、結果的に波にのれたのではないかと思います。



——このイベント、元々見に行く予定だったと伺ったのですが。。。

■ただ見に行く予定のイベントから登壇者に

最初は、脳科学者の茂木健一郎さんのプレゼンや、他の人のプレゼンテーションを見にいきたいなぁという思いでした。そこで、参加者として申し込んでいたのですが、抽選に運良く当たり、プレゼンをさせてもらえることになったんです…。

■英語でプレゼンをしたからこそ、スタンディングオベーションが発生した

実は、日本語でプレゼンをした人もいました。しかし、日本語はあいまいな言語のため、語尾でごまかすことができると思っています。つまり断言しないプレゼンになりがちなのです。でも英語は、断言してしまう。おそらく言語的な違いだと思うのですが。僕は英語でプレゼンをする事が初めてだったからこそ、端的にプレゼンをすることができたと考えています。どういうことかと言うと、中学生の僕は、英語の単語をあまり知らないので、必然的に英文がシンプルになるのです。つまり、プレゼン自体もシンプルになるのです。だから多くの人が共感してくださり、スタンディングオベーションをくださったのだと思います。

——山本君を初めて知る人もいるかと思うので、どんなプレゼン内容だったか改めて教えてください。

■可視化することで、他人事から自分事へシフトしてほしい

まず、僕の届けたいことは大きくわけて2つです。

1つ目が「自分の体を定期的に造形することで成長の過程を残すこと。何か自分の体に異常があった時に、それまでの過程を手がかりにすることで予防医療に活かしてほしい」ということ

例えば、10年後に僕の体にがんが見つかったとします。そんな時に、今までの自分の体を検査していてその過程を残しておいたらどの時点で悪くなったということが分かりますよね。15歳の時に腎臓が悪くなってる。じゃあ腎臓からがんが発生したんだ!と分かる。そうすることで医療に貢献できると思うんです。

2つ目が「だれでもが自分の命のカタチを手に取って学ぶ事ができるようにし、それにより健康や命について向き合ってほしい」ということ。

例えば、メタボの人が自分の体を可視化できるようになったら、運動をするようになるかもしれないし、タバコを吸っている人の体を造形できたら肺が真っ黒だということを認識でき、タバコを辞めるかもしれません。

——では、なぜ自分の造形を作る必要があるのですか。

可視化する事で漠然としていた身体の事が明確になり、それをきっかけに、人は誰でもかわることができるからです。

——山本君にはプレゼンを多くする機会があると思うのですが、プレゼンで意識していることは何ですか

■分かりやすさの本質は捨てること

シンプルにすることです。シンプルにすることでプレゼンは人々に伝わると僕は思います。僕はプレゼンを作り込む時、ある方法を使って作ります。それは絵コンテみたいに伝えたいこと・言いたい事を付箋に書き出すことです。そして、それを並び替えたり、整理したりすることで自分の伝えたいことやメッセージが明確になっていきます。

僕はプレゼンテーションと出会って、不要な情報を捨てることを学びました。そして、分かりやすさの本質は捨てることだとGarr・Reynolds先生に教えて頂きました。

それはなぜかというと、人間は聞いたことを一日過ぎると10%も覚えていないからです。つまり、だらだら話していたら印象に残りません。いかにシンプルに相手に届けるかがポイントなのです。

では、最初からプレゼンをシンプルに作れたのか?って言われるとそうではないんです。
実は僕、調べることが好きなのです。だから学校でも調べたことを全部発表したくなり、いつも制限時間をオーバーしていました。

でも今回のプレゼンでは、5分間という非常に短い制限時間だったので、何がなんでもプレゼンをまとめなくてはいけなかった。これが結果的に不要な情報を捨てることの大切さを知るきっかけとなりました。そのためには、スライドを一目で分かるようにしなくてはいけないし、言葉の言い回しも変えなくてはいけないので大変でしたが。(笑)
分かりやすさの本質は「捨てる」ことだと僕は思います。

——プレゼンって山本君にとって大きなモノだと思うのですが、プレゼンって山本君にとって何ですか。

■Presentation=Present

“Presentation is a Present” これは杉本先生の言葉です。
“Present”には二つの意味が合って、一つは贈り物という意味のpresent.

プレゼントというのはあげることだけが目的ではありません。貰った人がどう思うのか?受け取ってどうするのか?それが本来の目的でもあるのです。つまり、自分が発表して、よし!終わり!ではなく、聞いた人が持ち帰ってその後にどう活用するか?が大事なのです。そこまで含めてプレゼントということです。

もう一つの意味は、今、現在、この瞬間という意味のpresentです。
今ここでアイデアをシェアしてこの空間を分かち合うことに意味があるのです。

プレゼンテーションをすることは、相手を動かし、そして相手を変えることです。
聞いた人を何か少しでも変えることが出来なければ、
それはプレゼンではなく単なる説明です。
ふーんで、終わってはいけないのです。
では、どうするべきか?
パッション、情熱を伝えることです。
熱意が伝われば、オーディエンスとの一体感が生まれ、
人を動かすことが出来ると思います。

——最後に何かこれらの経験を通じて得たもの、壁を乗り越えたものを感じていると思うのですが、いかがでしょうか。

■夢はかなうものでなく、叶えるもの

偶然が重なって、僕はプレゼンテーションする機会を今まで、たくさん得ることが出来ました。
その結果、自分から発信する事でまた新しい出会いがあり、人の輪も広がって行くという事を経験できました。
このような体験が出来た事は、僕を支えてくださる、本当にたくさんの方々のおかげです。自分から発信すると必ず反省点が出来、また次の課題が生まれる事も実感しました。

元々、僕は器用じゃないし、ノロいし…だからこそ、人一倍努力しないといけないと思うんです。

なぜなら夢はかなうものではなく自分から叶えるものだと思うからです。
僕は将来ピクサー社に入り、そこで制作したアニメーションを通して、夢の大切さ、命の尊さを発信したいと思っています。


【山本恭輔】
1998年2月3日生まれ。現在中学3年生。3,4才の頃からPixarのアニメーション映画に魅せられ、CGに初めて出会う。さらにCGを始めとするデジタル技術を社会でどう活用されているかを研究していく中で、医療現場でのデジタル技術に興味を抱く。14歳ながらも株式会社ワタミ主催『第二回夢アワード』ファイナル、2012年株主総会・ワタミ感謝祭、TEDxOsaka、NHK主催のトークイベント「TED meets NHK スーパープレゼンテーション」などに出演。スケルトン造形を社会に広めることをメッセージとし、プレゼンテーションの力を日々磨いている。

●山本恭輔について http://www.ikyosuke.com/aboutme.html
●夢アワードについて:http://blog.livedoor.jp/miraimeishi/archives/5526334.html
●TEDxOsaka http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&client=mv-google&v=pg63A6WaC-c&nomobile=1