WHO(世界保健機関)は先月10日の自殺予防デーに対して、報告書を出した。全世界で毎日平均して3000人が自殺するという。自殺率が最も高いのはリトアニアやロシアなどの東欧諸国で、最も低いのは私の住むジャマイカを含む中南米諸国だ。経済の発展イコール幸福度の上昇ではないことが自明になった今日、年間自殺者平均50人というジャマイカの幸せの秘訣は何だろうか。

伸び伸びと生きるジャマイカの子どもたち


ジャマイカの最低賃金は1週間40時間労働で約4400円(2012年9月現在)。経済的に豊かとは言えない。日本の中古車がいたる場所で活躍するジャマイカでは、日本は「お金持ちで、幸せな国」に写る。しかし、ここで9か月を暮らす私の目にはジャマイカ人の方がはるかに毎日を楽しんでいるように見える。その理由は人間の本能に正直なことだ。

まず、ジャマイカ人は性生活に対して非常にオープンだ。彼らは「パトワ」と呼ばれる方言を日常会話に用いるが、この単語の中には、性的な表現が非常に多い。ジャマイカ人成人同士の挨拶としても「最近の性生活はどうだ?」という会話が繰り広げられる。

黒人の中に肌の白いアジア人は目立つ。道を歩いていると、突然見知らぬ男性から女性器を示す英語やパトワの単語を投げつけられることもしばしば。下品な物言いに腹が立つがここではそれも挨拶と見なされる。

睡眠欲にも忠実だ。ボランティアとしての配属先でパソコン作業に集中していると、寝息が聞こえる。周囲を見渡すと私以外のスタッフが全員昼寝をしているということがあった。「昨晩飲み過ぎて、起きられなかった」と悪びれずにミーティングに遅刻するジャマイカ人もいる。

食はどうか。基本的に食べたいものを食べる。鶏肉はジャマイカ人の大好物で、人によってお気に入りの「部位」がある。足を踏み鳴らしたり、机をたたいたりしながら、どこで買った鶏肉がおいしい、という会話をしているのを見ると、自然に笑ってしまう。

人間の三大欲である、「食欲・睡眠欲・性欲」。もしかしたら、日本人は理性で本能を抑え過ぎてはいないだろうか? 社会的な側面を重要視しすぎてないだろうか? 彩りに満ちたジャマイカの暮らしの中から日本の社会を考える時、毎年30000人以上もの自殺者を出す日本は、至極無機質に写る。(オルタナSジャマイカ特派員=原彩子)