ベトナムでは出産を理由に仕事を辞める事も、辞めさせられる事もない。なぜなら彼女たちは働き者で企業の大切な戦力だからだ。

日系メーカーなど製造業の工場でのライン作業では、業務量を抑え、座り作業ができる「妊婦ライン」を設ける会社も多い。女性の就労と出産は当たり前の事であるという価値観が広く浸透している。

街角のレストランを切り盛りする女性


クレジットカードのマスターカード・ワールドワイド(本社:ニューヨーク州パーチェス)が2012年3月に発表したアジア/太平洋地域の女性の社会進出度調査で、日本は14国中12位だった。

高等教育、労働力参加など5項目の総合点でランキング付けされたが、日本は「管理職への就任」が最下位の15%。企業や政府機関の男性社会が浮き彫りになった。

一方、ベトナムは「労働力参加」で14国中1位の90.1%。経済成長とインフレの影響で夫婦共働きでないと家計を支えられないという本音があるが、仕事と家事を両方ともこなす彼女たちは本当にたくましく、発言権と決定権を持っている。

国民の平均年齢が27歳の同国は、結婚年齢も20代前半で子どもを持つ家庭の割合も多い。国民は子ども好きで、地域ぐるみで子育てをしている。至る所に私立保育所があり、入所の審査も特に無い。

オフィスで働く妊娠7カ月の女性


5歳になれば健康診断の受診結果を持参するだけで、無条件に格安の国営保育園に入園できる。また、「おしん」と呼ばれる主に家事をこなすお手伝いさんを個人で雇っているケースも多い。「おしん」という呼び名は、ベトナムでも流行った日本のテレビドラマから来ている。

街中でも働く妊婦を見ない事はない。飲食店、小売店、百貨店など職種も多岐に渡る。しかも彼女たちは大きなお腹を抱えて、バイクにも乗るし、きちんと仕事をする。

現在の産休制度は4カ月だが、産休中は収入が減るので出産ぎりぎりまで仕事する事も一般的だと言う。なかには、出産当日まで働く女性もいるという。体への負担が少ない帝王切開での出産も多く、出産後は配偶者や親族が育児に積極的に参加し、母親の負担を和らげている。

仕事と出産をどちらも諦らめない生き方、それを可能にする社会をぜひ参考にしたい。(オルタナSベトナム支局特派員=中川真弓)