「実は私ね…」「俺は…」、そんなカミングアウトをした、された経験が、これまでの人生の中で皆さんにも一度はあるのではないでしょうか。一体、どんな気持ちでしたか?「これを言って、嫌われたらどうしよう」「聞いてもいいのかな…」、そんな不安が、心の中にはありませんでしたか?「マイノリティーとは、そしてカミングアウトとは何なのか」。大切な人へのカミングアウトを応援するNPOに、話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
「自分らしく」生きさせてくれた友人の存在
「NPO法人バブリング」(東京)は、大切な人へのカミングアウトを応援しながら、ありのままの自分を表現でき、またあるがままの他人を受け入れられる社会を目指して活動する団体です。
代表の網谷勇気(あみや・ゆうき)さん(40)が同性愛者であることに気づいたのは10代の頃。「友人に嘘をつきたくない。自分を偽りたくない」。自らゲイであることを告白した時、そこには何も変わらず受け止めてくれる友人たちがいたと言います。
「カミングアウトしても離れない友人がいるということを通じて、『自分は居ても良いんだ』という自己肯定の作業を繰り返していた」と当時を振り返る網谷さん。「活動を通じ、カミングアウトするかしないかも含め、生き方は自分で選択できるんだということを伝えたい」と話します。
「カミングアウトするかしないかを決めるのは本人だし、どういったから成功とか、どういったら失敗とか、そういうのもあるわけなくて。カミングアウトを後押しするのではなく、自分が自分らしく、あるがままに生きられるような社会を作るための手伝いがしたい」
「マイノリティの感情を知って」、大人向けワークショップやバーを開催
「バブリング」は、障がい者や性的マイノリティー、難病や身内が失踪した人など、様々なマイノリティー要素がある人のカミングアウトストーリーを団体ホームページに掲載したり、週に1度、新宿ゴールデン街で「バブリングバー」を運営したりしているほか、「ダイバーシティ体感ワークショップ」という主に教育者向けのワークショップも行っています。
「なんらかのマイノリティー要素のある方になりきって、どんな言葉をかけられたら傷つくのか、どんな言葉だったら相手に心を開こうと思えるのか…、コミュニケーションを想像しながら体験できるワークショップ。参加者からは『当事者にとって、どんな言葉がしんどいか理解できた』といった声をいただいていて『コミュニケーション次第でカミングアウトしやすくもなるし、しにくくもなる』という気づきを得てもらえるのは良いなと思っている」
なぜ教育者向けに開催するのか?という問いに対して、網谷さんは次のように答えてくれました。
「子どもと接する立場にある教育者に、マイノリティーの感情を体感してもらうこと、そしてその経験を実践の場で生かしてもらうことは、すごく大きな意味がある。子どもたちが小さいうちから『自分は自分で、相手は相手。世の中にはいろんな人がいる』だということを認識できれば、社会も少しずつ変わっていくのではないか」
切り口によって、誰しもが何かのマイノリティになり得る。つまり、誰もが「当事者」
大学生の頃くらいから、自分のセクシュアリティをカミングアウトすると、相手から「実は俺も」「私も」と「カミングアウト返し」があったという網谷さん。
「自分がカミングアウトすることより、相手にカミングアウトされたことが、僕の中ではキーワードとして残っていた」と当時を振り返ります。
「僕が最初にカミングアウトした16、7歳の頃は、自分のセクシュアリティを受け入れることで精一杯で、本当にただ「助けて」という感じだった。自分のことが落ち着いた後、打ち明けられ体験をたくさんしたことで、世の中にはいろんな人がいるんだと改めて思ったし、それぞれの人がそれぞれの背景で、生きづらさや言いづらさを感じているんだと感じた。だんだん、自分のセクシュアリティよりもそこに関心が強くなり、ここをなんとかできないかと思うようになった」
「カミングアウトという言葉自体は大げさに聞こえるけれど、相手に伝えたいこと、打ち明けたいことは、大小関係なく、誰にもあるものだと思う。世間には、人をラベリングして、マイノリティーはなかったことにされるような風潮がある。けれど切り口によっては、マジョリティに属していたはずの自分も、マイノリティーになり得る」
「マイノリティーとマジョリティは、切り口で反転する。たとえば『セクシュアリティ』という切り口では、LGBTの人たちはマイノリティーに属するけれど『利き手』という切り口では、左利きの人たちがマイノリティーになる。そういう意味では、誰しもが何かの当事者。だから、自身の当事者性を感じながら、人と接することのできる社会を作っていくことができたら」
「普通」って何だろう
「普通(マジョリティであること)」が良しとされる風潮がまだまだあるのではないか」という筆者の問いに、網谷さんは次のように話してくれました。
「『普通』って一体何だろう、ということを考えたい。日本に住んでいる人の多くは、目の前の友人や恋人が、健康で、異性愛者で、両親が揃っていて、犯罪加害者にも被害者にもなったことがなく、ルーツは日本人で…ということを、どこか先入観や思い込みで決め込んでコミュニケーションをとっているところがある。『両親がいる』『異性愛者である』『日本人である』『健康である』と一方的に決めつけるのではなく、『いろんな人がいる』ことが、皆の意識の前提になっていくと良いなと思う」
「自分は自分で、他人は他人。なのに、『みんな普通』『同じ』という発想で、人との違いに踏み込もうとしない。『人との違い』に対する認識も、関心も低い。結果、差別や偏見というものにまで、意識が届かないことがほとんどだと感じる」
「相手のこと、誰か一人の個人のことを深く知ろうとした先に、その人が抱える課題や背景がある。それを知っていくと、社会の構造が見えてくるし、差別の現実も見えてくる部分がある」
カミングアウトは「関係性の再構築」
中学校からずっと憧れ続けてきた先輩がいた網谷さん。「ゲイ嫌い」の噂があったその先輩に、大人になってカミングアウトを果たした時の経験を、次のように話してくれました。
「憧れていたからこそ向き合いたいと思って、彼にも直接伝えた。その時、先輩の口から出たのは『ゲイに偏見を持っていたけど、今までの関係を踏まえたら、お前がゲイなんて大したことのない話だな』という言葉だった」
「この頃は既にカミングアウトに慣れていたが、慣れていて冷静だったからこそ緊張と不安の強いカミングアウトで、でもその言葉を聞いた時、ちゃんと人間関係を築いていけば、何かを打ち明けても乗り越えられることもあるんだ、と思えた。自信になった」
「カミングアウトは『関係性の再構築』だと思う。見えていなかった・見せていなかった自分の側面を開示して、その状態でもう一度『よろしくお願いします』と相手に伝える。最初は受け入れるのが難しいこともあるかもしれないが、互いに質問し合いながら、一緒に関係を作り直していけたら良いなと思う」
大切なのは「ラベリング」ではなく「相手とどうしたいか」であり「相手との関係」だということを、網谷さんの話を聞きながら強く感じました。
多様性を若いうちから感じてほしい。「ダイバーシティー体感ワークショップ」を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「バブリング」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×バブリング」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、「バブリング」が教育者向けに実施する「ダイバーシティ体感ワークショップ」を日本各地で開催するための営業資金となります。
「昨今、『多様性』という言葉をいろんなところで目にするようになった。多様性の見える社会をかなえていくためには、自分は他人とは違う個体であること、世の中にはいろんな人がいるということを認識する必要がある。『自分はありのままで良いんだ』『いろんな人がいるんだ』ということを、若いうちから知り、感じてほしい」(網谷さん)
JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、胸に刺さった鍵。「心の扉を開き、自分らしく生きるかどうかはあなた次第」、そんなメッセージを表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、9月24日~9月30日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、「バブリング」の活動について、網谷さんへのより詳しいインタビューを掲載中!こちらもチェックしてくださいね!
・カミングアウト──「ありのままの自分」で、「ありのままの他者」を受け入れられる、強くやさしい社会を〜NPO法人バブリング
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年9月で、チャリティー累計額が2,500万円を突破しました!
【JAMMIN】
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