神社などの周りをこんもりと守るように植わっている「鎮守の森」。2011年3月11日に発生した東日本大震災では、津波でコンクリート堤防や松林がことごとく破壊される中、この森だけは津波から流されずに残りました。先人より伝わるこの森が、地域に豊かな恵みをもたらすだけでなく、災害時に「いのちを守る森」として、役立つ機能を担っていたのです。この「いのちを守る森」を後世へと伝えたい──。「鎮守の森」をモデルとした森づくりを行う団体を紹介します。(JAMMIN=山本 めぐみ)

■「鎮守の森」をモデルに44万本の苗木を植樹

「鎮守の森のプロジェクト」の理事長を務めるのは、細川護熙(ほそかわ・もりひろ)元首相(左から3人目)。高知県南国市で開催された植樹祭にて

公益財団法人「鎮守の森のプロジェクト」(東京)は、東日本大震災の翌年に活動を開始。「鎮守の森」をモデルにした自然災害に強い森づくりを各地で行っています。

「これまで、全国7箇所に447,901本の木を、50,456人のボランティアの方々と一緒に植樹してきました。小学校や幼稚園の周囲に作った小さな規模から、宮城県岩沼市沿岸部の約10キロにわたって30万本の木を植えた大規模なものもあります」

そう話すのは、「鎮守の森のプロジェクト」渉外の石森(いしもり)さん。活動開始から6年、一昨年からは活動の幅を東北から日本全国へと広げ、「災害からいのちを守る森」づくりを進めています。

■「鎮守の森」の威力

そもそも「鎮守の森」とは何なのでしょうか?そして、「鎮守の森」がどのようにして自然災害から私たちを守る役割を果たすのでしょうか?

東日本大震災の津波にも流されず、生き残った鎮守の森。写真:佐脇充(BEAM×10)

日本各地のお寺や神社、古い屋敷などに残されている「鎮守の森」は、その土地本来のふるさとの木による森で、何百年も前からある森です。

日本の国土を多く占める森林ですが、自然の森はほとんど残っていないのだそうです。「鎮守の森のプロジェクト」の副理事長である植物生態学者の宮脇昭(みやわき・あきら)博士の調査によると、戦前、日本全国にはおよそ15万箇所以上の「鎮守の森」があったとされますが、現在その数は非常に少なくなってしまいました。

「鎮守の森」は、その土地本来の木で構成されていることから、地域の自然環境を改善すると同時に、根が深くしっかりと土地に張り巡らされ、台風や豪雨、津波でも簡単に倒れることがありません。

そして、この「鎮守の森」をモデルにした自然災害からいのちを守る森づくりの特徴について、石森さんは次のように教えてくれました。

植生調査の様子

「私たちの森づくりの特徴は、まず植樹する土地の植生調査をして、その土地に適した十数種類の常緑広葉樹(シイ・タブ・カシなど)を密植・混植し、互いに競争させながら森をつくります。十数種類の常緑広葉樹を植える森は、杉や松などの単植林に比べ『根が真っすぐ深く張る』『緑の表面積が多い』などの特長があります。これにより、台風や豪雨でも倒されにくく自然の土留め効果のある森となり、災害時に二次・三次の被害を防ぐことができます」

■森の構造に、津波に強い秘密があった

東日本大震災では、流された木々が二次災害・三次災害を引き起こした

「各地の気候や環境によって『鎮守の森』を形成する木は異なるが、どの場所でも、様々な種類の高木、亜高木、低木、下草、また土の中のバクテリアやカビ、ミミズなどと関わり合いながら共生し、多層構造の森を形成しています」と石森さん。

東日本大震災では、海岸沿いの松が津波によって根こそぎ倒され、さらに内陸部に流れて家を破壊するなど二次災害を引き起こしました。しかし一方で、古くから自生する「鎮守の森」は、大きな津波に流されることなく、しっかりと生き残っていたのです。

津波にも負けず残った森は、車などの漂流物を受け止める役割を果たした。宮城県多賀城市にて

「さらに、高木や低木など多層構造の森が壁となって津波のエネルギーを吸収し、威力を最小限に抑えると同時に、引き波の際に津波に流された家や車などの漂流物を受け止め、沖へと流れてしまうのを食い止めました。まさに、災害からいのちを守る森だったんです」

そのことを証明するある森がありました。宮城県多賀城市には、宮脇博士が中心となって「鎮守の森」をモデルに植樹した森がありました。東日本大震災の発生時、この森は植樹からたった7年。しかし、津波に負けずそこに残っていただけでなく、引き波がさらおうとした多くの物を受け止め、守ったのです。

■過去の災害では、火災からもいのちを守った

1995年の阪神淡路大震災にて。常緑広葉樹の並木で火は止まり、小道を一本隔てた集合住宅は延焼を免れた。兵庫県神戸市にて

「鎮守の森」が人々のいのちを守ったのは、津波からだけではありません。1923年の関東大震災、また1995年の阪神淡路大震災の時にも、昔からその土地に自生した常緑広葉樹が水分を多く含んでいたために延焼を食い止め、火災から人々の命を守っていました。

「敷地の周りを常緑広葉樹の木で囲まれた場所にいた人たちは、延焼の被害を受けずに済みました。津波対策として沿岸部に植えるだけでなく、災害時に人々の避難先となる学校や、多くの人が集まる商業施設やオフィスビルの周辺に『鎮守の森』をモデルにした森をつくることで、新たなかたちで人と森が共生していけるのではないか」と石森さんは話します。

■「鎮守の森」はどのようにつくるのか

「鎮守の森」をつくるにあたっては、気候などの面も含め、その土地に昔から存在した、その土地に本来ある木であることが条件となります。

「まず現地で植生調査を行い、その土地に昔から存在した、その土地に本来ある樹種を選定し、現地でどんぐりを拾い、ポット苗に育ててから、混植・密植しています」と石森さん。

「鎮守の森のプロジェクト」が実施したポット苗講習会の様子

「30cmほどのポット苗は、根を切る必要もなくそのまま植えることができ、成木を植えるより、根づきやすいです。また、古くからある『鎮守の森』同様、いくつかの種類の高木や低木を一緒に植えることで、木々が競争し合って成長が加速します。こうして植えられた木々は、その地域に適した『いのちを守る森』へと成長し、20年で立派な森になります。こうして植えられた苗木は、植樹後3年間はメンテナンスが必要ですが、その後は長期的なメンテナンスも必要ありません。宮脇昭博士によると、自然の力で循環し、9,000年持続する森になると言っています。今後人口が減っていく中で、人手やコストのかからないエコな防災システムを後世に残していくことができるのです」

■そして、新たないのちをも育む場所へ

植樹祭にて。全国各地からボランティアが集まり、一本ずつ丁寧に苗を植える

石森さんは、活動について次のように話してくれました。「『災害からいのちを守る森』を作る、ということが私たちの使命ですが『鎮守の森』がもたらすのは、防災の機能だけではありません。その地域本来の森は、もともとそこにいた在来の生物、鳥や昆虫、動物を呼び戻し、新たないのちを育みます。また、ミネラルを大地に与え、環境改善にもつながります」。

災害からいのちを守るだけでなく、さらに新たないのちを育む「鎮守の森」。日本のみならず、世界各国からも注目が集まっています。

■「鎮守の森」づくりを応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は「鎮守の森のプロジェクト」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。1アイテム購入につき700円が「鎮守の森のプロジェクト」へとチャリティーされ、苗木購入のための資金となります。

「JAMMIN×鎮守の森のプロジェクト」1週間限定のチャリティーデザイン(ベーシックTシャツのカラーは全8色、他にパーカーやマルシェバッグ、キッズ用Tシャツなどもあり)

JAMMINがデザインしたTシャツに描かれているのは、近代的なビルと、もこもことした広葉樹がひしめき合う姿。現代に合ったかたちで、私たちの暮らしと森が隣り合わせで寄り添いながら共存していこうという思いを表現しました。チャリティーアイテムの販売期間は、3月5日〜3月11日までの1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、「鎮守の森のプロジェクト」の活動について、より詳しいインタビューを掲載中!JAMMINのホームページよりご覧ください。

「あの日学んだことを、この森に託したい」。「災害からいのちを守る森」をつくる〜鎮守の森のプロジェクト

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。

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