大飯原発再稼動に端を発する首相官邸前での抗議アクション、エネルギー政策を問うパブリック・コメントへの反響など、「脱原発」は国民的ムーブメントに進化した印象がある。

だが一方で、震災の記憶の風化と共に、原発事故は収束したものという政府の見解に従い、原発を容認する自民党に支持が傾くなど、全体に「原発を問題視しない」「原発より領土問題のほうが切迫している」といった風潮に覆われてきた感も強い。

一部の脱原発運動がメジャー化する一方で、容認・無関心ムードも広く蔓延するといったように、二極化している印象だ。

震災ショックから立ち直りつつある今こそ、原発問題にとってはターニングポイントだ。「ここで原発NOと言わなければ一生後悔する。そればかりか後世に汚点を残す」という危機感が、脱原発派の原動力として共有されてきている。



危機感の結晶とも言える本が、『原発問題に「無関心」なあなたへ』(キラジェンヌ)だ。政治家、学者、経営者、作家、芸能人など、さまざまな立場の32人から、原発問題へのメッセージをまとめている。

先日、東京・下北沢の北沢タウンホールで、出版記念イベントが催された。やや残念だったのは、上記のような世間の空気を反映してか、300人ほど入るホールの半数ほどが空席だったことだ。

ただイベント内容は、本の寄稿者たちの切実なメッセージにあふれていた。
仲代奈緒さんによる絵本『みえないばくだん』の朗読や、藤波心さんによる童謡『ふるさと』の歌唱。すぐろ奈央さん(緑の党)、三宅雪子さん(衆議院議員)、保坂展人さん(世田谷区長)の三氏による鼎談や、田中優さんによるエネルギー問題を図解したスライドショーなど、情感に訴えるものから具体的な政策提言まで、バラエティーに飛んだ内容だった。

このイベントには、脱原発を進める上での気付きがあった。それは「無関心な人にどうやって伝えるか」ということ。通り一遍の声高な主張ではダメ。緩急織り交ぜ、あらゆる場面で、手を尽くして、伝え続ける必要がある。

イベントに足を運ぶ時点で、観客もすでに相当意識の高い人たちだ。そういったイベント会場やデモなど「運動体の内部」でアピールするだけではなく、家庭や学校、会社といった日常の場で、ブログやSNSといったメディアで、普通に原発の話題を重ねていく地道な行動が、実は脱原発へのさらなる原動力となるということ。少なくとも、この本やイベントにかかわった人たちはそう思っている。

本書の編集長であり本イベントの主催者である吉良さおりさん(キラジェンヌ代表)は、今後も続く無関心層への働きかけについて、「どんなに良い情報やアクションでも、マイノリティーになってしまってはどうしても一般的には広まらないと感じます。原発問題に関しては『百匹目の猿現象』を信じて、自分のできる範囲から働き続けることですね」と語る。

「百匹目の猿現象」とは「多くの思いが集まって一定数を超えると、一気に全体にまで伝わる」という例えである。昨日までと違う、人々のとった新たな行動が、きっと百匹目の猿を動かすに違いない。(オルタナS特派員=青木ポンチ)