伊藤忠商事は「環境保全」を社会貢献活動の柱の一つとし、保護されたアマゾンマナティーを野生へ復帰させるための支援事業を行っている。アマゾンマナティーは乱獲や密漁で生息数が激減し、相次いで保護されている。だが、その生態の研究は進んでおらず、再び野生に放流しても、自力で餌を捕る能力が低下しており、衰弱してしまう。同社では、保護したアマゾンマナティーを放流する取り組みへ、3年間で1500万円を拠出。SDGs(持続可能な開発目標)で定められている、生物多様性の保護を目指す。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

国連が採択した行動計画であるSDGsでは、「誰も置き去りにしない」をスローガンに、17の目標と169のターゲットを定め、国際社会全体で包括的に弱者救済に取り組む。目標15は、「生物多様性損失の阻止」であり、同社では新たなプロジェクトで、この領域のSDGs達成へ貢献することを目指す。

草食系の大型水生ほ乳類のアマゾンマナティーは、急速な都市開発により多くの生態系が失われつつあるアマゾン川に住む固有種。食用にも工業用にもなるアマゾンマナティーは大規模な乱獲や密漁に遭い、絶滅の危機にある。保護される数は後を絶たない状況だという。

アマゾンマナティーの親子

保護したアマゾンマナティーを再び野生に戻すには壁が高い。2008年から保護したアマゾンマナティーを放流する取り組みを行う国立アマゾン研究所では、2016年までにわずか4頭しか放流に成功していなかった。

同研究所では約60頭を保護し水槽で飼育しているが、すでに水槽内は飽和状態だという。放流が成功しない背景には、アマゾンマナティーの生態について研究が進んでいないことや、飼育されたことで自然環境への変化に対応する能力が低下してしまうことなどがある。

そこで、同社ではアマゾンマナティー野生復帰支援事業として「マナティー里帰りプロジェクト」を立ち上げた。国立アマゾン研究所は京都大学野生動物研究センターと組み、「*フィールドミュージアム構想」の一環として、保護したアマゾンマナティーを放流する取り組みを行っているが、この事業に3年間で1500万円を拠出した。

マナティー里帰りプロジェクトのロゴ

*「フィールドミュージアム構想」は、アマゾン川の生態系を研究・保護するプロジェクトで、日本の国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)と独立行政法人国際協力機構(JICA)が共同で実施している地球規模課題解決をめざし取り組む研究プログラムSATEPSプロジェクトの一つである。

「マナティー里帰りプロジェクト」は、水槽で飼育しているアマゾンマナティーをいきなりアマゾン川に放流するのではなく、半野生環境の湖や川の生簀(いけす)に放流して、馴染ませていく。2018年度までに20頭以上の半野生復帰、10頭以上の放流に成功させることを成果指標としている。

現地住民へ、アマゾン川一体の環境に対する教育も行うという。アマゾン川にはまだ明らかにされていない生態系が多く住み、生物多様性の宝庫だ。しかし、地元住民が生態系の重要さを知らずに、無作為に木を切ってしまう。

今年1月下旬には、「なんとかしなきゃ!プロジェクト」メンバーで、魚を通じた社会貢献活動を国内外で行っているさかなクンが現地を訪れ、アマゾンマナティーの保護事業を視察し、その後、ブラジルの子どもたちへ環境教育を行った。さかなクンがアマゾン川にいる魚や動物たちの絵を描き、生物多様性保全の大切さを伝える授業だ。この模様は、3月8・15日BS-TBSで「さかなクンの地球応援団 未来に残せ!アマゾンの大自然」(19:00~19:54)にて放映される。

同社では、日本の子どもたちへの啓発活動も行っていく。同社が協賛する子ども向けの職業体験施設「キッザニア東京」のエコショップパビリオンを改装し、アマゾンの熱帯雨林とそこに住む動物たちの重要性を「マナティー里帰りプロジェクト」を通して、子どもたちに説明する。パビリオンに参加した子どもの人数に比例した金額をアマゾンマナティーのミルク代となる仕組みも開始し、グローバルに環境問題を考えるきっかけを提供する。

さらに、同社の本社横に構える社会貢献型ギャラリー「伊藤忠青山アートスクエア」では、環境教育をテーマとした写真展を開く予定。同社広報部後藤麻希子氏は、「遠く離れたブラジルの問題でも、私達の生活にも密接につながってくる地球規模の環境問題。当プロジェクトを通じて、これからも様々なアプローチで環境保全について発信していきたい」と、SDGsの達成へ貢献するアマゾンマナティー里帰りプロジェクトへの意気込みを語った。

今年4月にも新たに5頭の放流が決定しており、世界的に注目されている。

アマゾンの地域住民や子どもたち、そして遠く海を越えて日本の子どもたちも、アマゾンマナティーについて学び、そして彼らを守る活動につなげていく「マナティー里帰りプロジェクト」にこれからも注目していきたい。

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