大学卒業後、企業ではなくNPOへ就職や移住してソーシャルビジネスを展開する若者が増えている。しかし、「ソーシャルビジネスプア」といわれるように、ソーシャルビジネスで結果を残している人はごくわずかである。人事コンサルタントの城繁幸さんに、オルタナティブな進路を選択した若者たちはこれからどこへ向かうのか考えを聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)

『若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来』(光文社)の著者である城さん


個人個人にスキルが戻ってくる

——城さんは、「若いうちはワークライフバランスの概念は持たず、ワーク、ワーク、ワーク」だと言っていますね。

:私は39歳なのですが、20代のうちにどれだけ仕事をしているかで、30代半ばから後半にかけて結果が分かれます。ものすごく差がつきますね。

厳しい立場で追い込んできた人は、それなりのポジションにいて、専門知識もあるので市場価値があります。労働市場に対してもイニシアティブを持てます。裁量を持った働き方ができるので、結果として、ワークライフバランスができているのです。

ですから、20代はワークライフバランスを気にしない方がいいと言っています。

——大企業の長時間労働は問題視されますが、ベンチャー企業の労働時間はあまり問題視されていないように思います。労働時間は同じくらいだと思いますが、なぜ大企業だけブラック企業と呼ばれてしまうのでしょうか。

:そもそも長時間労働が問題視される要因は、その仕事が自分のキャリアにつながっていないことだと思います。先が明確にならない仕事をやり続けることは精神衛生上よろしくないですから。

——私は、「命がかかっているのか」どうかが大きいのではないかと思います。特にベンチャー企業で働く人は強くそのことを感じているのではないでしょうか。

:そうかもしれませんね(笑)。ある意味、ベンチャーは社員全員が経営者です。この感覚は1000人を超えてしまう会社ではなかなか生まれません。厳密にホワイトカラーといえない会社では、長時間労働の条件を付けたほうがいいです。

——日本人はよく働きます。城さんにとって「豊かな働き方」とはどのようなものでしょうか。

:個人個人にスキルが戻ってくるような働き方が一つのメインストリームになるかもしれません。

今まではいかに個人を消して、組織に従属するかで人事制度を動かしていましたが、いかに手に職をつけて、組織と距離を置くかという働き方が脚光をあびると思います。

エシカルはビジネスと両立できる

——東日本大震災の影響もあり、大学卒業後、就職ではなく、NPOに入ったり、東北に移住して復興支援活動を行ったりする若者も現れています。しかし、「ソーシャルビジネスプア」や「NPO30歳限界説」などリスクもあります。城さんはこのような選択を取る若者をどう思いますか。

:本人がやりたいならいいでしょう。社会に出るきっかけとしては、ボランティアはいいと思います。そこで、一生働けるのかという疑問を抱くこと自体、終身雇用にとらわれ過ぎています。

企業に入らずにそのような選択をすることは危険とされているかもしれませんが、むしろ、私はそのような人材が、これからの労働市場において価値が上がってくると思っています。

なぜなら、世界標準としては、卒業してボランティアや世界を周るのが圧倒的に多いからです。新卒一括採用は日本だけです。

10年前なら「NPOには行くな」と言っていたでしょう。しかし、今は環境が変わってきています。菅直人さんが首相のときに、新卒就職率が悪いので、既卒3年は新卒扱いとしました。

私も含めて識者はみんな笑いました。終身雇用にメスを入れるべきだと言いました。しかし、意外にも企業の評価が高かったのです。企業の人事に理由を尋ねたら、22歳の優等生な若者には何の魅力も感じないとのことでした。

マークシート方式のテストは得意だが、それ以外はできない若者では、グローバルで勝負していけません。今では、中国やインドネシアの若者を採用しようと思えば取れるわけです。

ですので、卒業後、単身で見ず知らずの土地に飛び込み、実績をあげた若者の評価は高いです。3年間自分なりに努力してきて、色を出してきた人はウェルカムという声が、決して少数派ではないのです。

——アメリカでは、ティーチフォーアメリカというNPOがグーグルやアップルを抜き、就職ランキングで1位を獲得したこともあります。また、青年海外協力隊であるピースコーも上位に位置します。しかし、日本ではまだNPOへの評価は低いです。

:終身雇用の発想があるからですね。企業からすれば、40年以上雇用すると考えると、なるべく給料の安いうちに採用して、組織の色に染めた方が合理的です。そうなると、どのような人材が適しているかというと、何色にも染まっていない22歳のぴちぴちな若者なのです。

——エシカル思考を持った若者たちへメッセージをください。

:「エシカルはビジネスと両立できる」と理解してほしいです。マーケティングにおいて、ストーリーは重要です。人を惹き付けるのはストーリーであり、数字ではないのです。そして、ストーリーに対して、エシカルは親和性が高いのです。

就職活動でも同じです。TOEICの点数や学歴を話すのではなく、何かストーリーを持っている人に惹かれます。

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