平城宮跡


管轄の国土交通省は「歴史・文化遺産である平城宮跡を保存・活用するための工事」と市民に説明した。また、この一連の構想は1978年に決定済みと話し、それを聞いた奈良県出身の作家・寮美千子さん(57)は工事に合理性がないとし、工事の中止を求め代表として「守る会」を結成した。

松永さんは「保全と活用だけなら現在のままが一番」と指摘する。平城京は710年から784年までの75年間、都として栄えたのち、京都の長岡京へ遷都した。その際、平城宮の柱や瓦は再利用のため持ち去られ、更地となり農地となった。

当時の貴重な文字資料の木簡や遺構は1200年余りの間、草地や湿地の下で維持されてきた。湿地の下の地下水によって、木簡は水に浸され真空パックのように酸化や腐敗することなく発掘された。

自然環境も良く、関西で二番目に大きなツバメのねぐらがある。滋賀県と奈良県で希少種に、京都府では準絶滅危惧種に指定されているカヤネズミも生息している。1960年代には近鉄の電車車庫問題に続いて国道24号バイパス問題があり、これは全国的な反対運動のおかげで平城宮跡を迂回させることができた。2008年には、京奈和自動車道大和北道路は、反対運動にもかかわらず、事業決定されてしまったが、なんとか工事の着手は免れてきた。

「守る会」は、署名活動のほかに平城宮跡自然観察会や遺跡解説会を開き、市民に平城宮跡の環境を訴える活動を行う。署名用紙は守る会のホームページからダウンロード可能だ。街頭署名や口コミなどで広まり、署名開始からの10日間で4600筆の署名を集めた。

奈良県出身の歌手・堂本剛さんの中国や台湾のファンからも署名が届き、平城宮跡への関心の高さに驚いたという。集めた署名を国土交通省に直接提出したが、国は「決定事項である」と判断を変えず、話し合いは決裂した。

12月3日には湿地への土入れ作業が始まる一方で、23日には署名は3万筆に到達した。工事は現在も進められているが、完成予定の3月を大幅に遅れる予定だ。

奈良市民にとって平城宮跡は大事な場所で、開発されていない何もない空間が文化であり、奈良のアイデンティティだという。京都の清水寺のような歴史的建造物から歴史を見るのではなく、奈良は、今はなき歴史を自然から学び、想像することができる。

松永さんはこれからについて「平城宮跡の歴史の積み重ねに想いを馳せ、これからを考えるきっかけの場所になる。行政と市民のギャップを埋めるために、この問題に声を上げ続けたい」と熱く語った。(オルタナS関西支局特派員=魚野真美)


・企業のCSRに興味がある方はこちら
・NPO/NGO活動に興味がある方はこちら
・若者の社会貢献活動に興味がある方はこちら
・ソーシャルグッドなアイデア・サービスに興味がある方はこちら






前の記事を読む⇒【学生団体の復興活動を応援するクラウドファンディング

1 2 3