長野県諏訪湖周辺の圏域で92%もの高いシェアを誇るケーブルテレビ局がある。地域住民に愛されるユニークな取り組みについて聞いた。。(武蔵大学松本ゼミ支局=千田 朱理・武蔵大学社会学部メディア社会学科3年)
今回の取材では、エルシーブイの社員である佐久章展さんに話を伺った。同社は、長野県のケーブルテレビ局であり諏訪湖周辺の6つの市町村とそこへ隣接する2市町村に放送を行っている。加入数は約9万世帯。加入率は92%にまで及ぶ。
同社の設立は1971年。日本全国のケーブルテレビ局の中でも歴史ある局の一つだ。
高いシェアを獲得した理由として、「御柱祭」の生中継を行っていることが1つに挙げられる。この祭は6年ごとに諏訪大社で行われる地元の祭りであり、多くの地元住民に愛されていた。
初めに、会社設立からの歴史について説明する。1971年2月に同社は、「レイクシティテーブルテレビジョン」として誕生。1979年には自主放送が始まった。現在は12チャンネルで自主放送が放送されているが、当時は9チャンネルで自主放送が放送されており、地域住民からは「レイク」や「9チャン」と呼ばれ親しまれていた。
しかし、その当時の加入件数は現在の10分の1にあたる約1万件だった。2006年、長野県岡谷市で大きな土砂災害が発生。それをきっかけとして、2007年1月にコミュニティFM放送を開始した。現在、市町村と災害協定を結び、災害が起こった際には災害放送局として情報発信する役割を担っている。
同社のコンセプトは地元の人たちに信用されて必要とされるメディアになることである。毎日正しい情報を、伝えるべき人に伝えるべきことをしっかり伝えることをベースにしている。
近年、家族のコミュニケーションが希薄化している傾向にあり、家族の会話が少ない家庭も多い。番組を通して家族のコミュニケーションのきっかけになればいいという思いで番組を制作している。そういった中で、この1,2年は小さい子どもと高齢者に比重を置いて番組制作を進めているという。
一方、取材先や視聴者の人の反応も変わってきている。以前はこちらから情報を聞かないと教えてくれなかった。しかし、最近では地元の人から取材や撮影の依頼がくることも増えた。地元に必要なメディアとして、上手く関係性を築けていると佐久さんは語る。
同社では、日々のニュースを伝える報道番組を毎日、その他のレギュラー番組を週10本ほど放送している。特別番組も多く放送している。具体的には、スポーツの様子を収録したものや実況中継、音楽会などだ。30分〜2時間のものを毎月10本ほど制作するなど幅広いジャンルの番組制作を行っている。
さらに、テレビとFMが連携して番組制作を行うこともあるという。平日の朝7:00〜8:30、平日の昼11:30〜13:00にテレビにFMの音声が流れる番組だ。朝は、エリアの道路に約30カ所にある監視カメラのリアルタイムの映像を4分割の画面に映す。昼はFMのブースの様子が画面右下に映り、それ以外は文字の広告がピクチャーインしてある。
同社の事業と行政との関わりについても聞いた。放送エリアのうち、岡谷市、諏訪市、茅野市、辰野町は行政チャンネルを持っている。自社の11チャンネルを各市町村に割り振っており、各市町村独自の番組を放送している。
岡谷市は「シルキーチャンネル」、諏訪市は「かりんちゃんねる」、茅野市は「ビーナチャンネル」、辰野町は「ほたるチャンネル」という名で親しまれている。全ての市町村ではないが、同社のチャンネルを使って情報発信をしていることからも市町村と協力が出来ていることが伺える。
最後に、記録者としての使命について聞いた。ケーブルテレビ局の役割の1つは、アーカイブである。そのときあった出来事を記録として後世に残していく必要がある。映像によって歴史を伝えたり、情報を伝えたり、文化を伝えたりすることで、その映像に価値が生まれる。
記録者として、後世まで残しておかなければならない素材やそのときしか撮れなかった素材を残していくことで、地元の人たちの期待に応えることができると佐久さんは力を込める。