エシカルが若者に伝わりやすい理由

エシカル購入研究会会長で立教大学経営学部の高岡美佳教授は、「エシカルの波を動かしているのは、20代前半から30代前半」と話す。大学教授として、学生たちと接するなかで、ソーシャルやエシカルに関心の高い学生の多さを実感した。

マーケティング会社デルフィスの社内プロジェクトチーム「デルフィス エシカル・プロジェクト」が昨年実施した調査でも、エシカルの男女世代別に見た認知度は10代~20代男性の割合が19%で1番高いことが分かった。

なぜ、エシカルは若者に伝わりやすいのか。これまでの取材のなかでも、「若い世代の方がエシカルについて理解してもらいやすい」という声をよく聞いた。

電通ソーシャル・デザイン・エンジンの福井崇人チームリーダーは、「東日本大震災以降、日本の広告業界の動きはソーシャルに変わった」と話す。震災後、復興支援に関連するCMが増加した。

2011年4月、サントリーでは、和田アキ子や矢沢永吉、近藤真彦、松田聖子など複数の著名人が「見上げてごらん夜の星」を歌うCMを放映し、ソフトバンクモバイルが運営する「復興支援ポータルサイト」のCMでは、漫画家の井上雄彦がイラストを、音楽家のBUMP OF CHIKIN(バンプオブチキン)が新曲「Smile」を提供した。

世界的にみても、「世界最大の広告賞であるカンヌ国際広告祭でも、2007年ころからソーシャル性がない広告は評価されなくなった」という(福井さん)。

一方、社会学者の古市憲寿さんは、若者のソーシャル度は東日本大震災以前から高かったと考えている。古市さんは「現代の若者は生きているという実感を欠いている人が多いので、ボランティアを行う。社会貢献を通じた自分探しをしているのではないか」と分析する。

古市さんは、「マクロで考えると、自分の周辺のことに不便しないくらい日本が豊かな国になったことがある。自分のことで精一杯であれば、社会貢献をしようとは思わない」と話す。

社会学者の見田宗介さんも、「『リアリティー』を求めて若者たちがカンボジアなどに海外ボランティアに出かけている」と言っている。

就職先の一つとして、NPOを考える若者も増えた。2013年2月にNPO法人サポートセンターが主催した「NPOキャリアフォーラム東京2013」には約500人の学生が参加。前年と比べ1.4倍増だ。

自分のやりたいことが分からなければ、生きる気力を失ってしまうこともあるだろう。政府が閣議決定した2012年版「自殺対策白書」によると、20代の死因は自殺がトップだ。若者の自殺研究を続けるNPO法人自殺対策支援センターライフリンクの清水康之代表は、「同調圧力を受けて育ってきた結果、無意識のうちに、内発的な行動を閉じ込める傾向にある」と話す。

「昔は、お祭りや地域行事で役割が与えられていたが、今の社会ではそのような行事がなくなり、自分の存在価値を認識する機会がなくなってしまった」と分析する。

オルタナS編集部では社会貢献に取り組む若者たち100人以上を取材してきたが、「ボランティアをして、『ありがとう』と言ってもらえたが、こちらこそ『ありがとう』と言いたかったという声を多く聞いた。ボランティアで自分のしたことが誰かのためになり、自分の役割が分かった」というのだ。
 
エシカルは自己認識

一般的に、ソーシャルデザインとは、「あるべきものを時代に適した形にすること」や「社会や環境を考えた行動に改めること」とされている。

しかし、漫画家の井上雄彦さんは、『希望をつくる仕事――ソーシャルデザイン』(宣伝会議)の取材の中で、「ソーシャルデザインはたった一人で行う、孤独な自問自答。自分を深く掘っていくこと」と語っている。

井上さんの漫画には、「ストーリーはいらない」と言う。「キャラクターを描けば、自然とストーリーがついてくるから」だ。ただし、キャラクターを描く前には、何回も自問自答を繰り返し、徹底的に掘り下げていき、自分と向き合うという。

「ソーシャルな活動には、あえてのPRは必要ないのではないか。自分のやるべきことをしっかりと認識できているのであれば、自然と周りに人が集まってくるはず」だとしている。

マザーハウスの山口絵理子代表も、「留学時代にひたすら自分とは何かを掘り下げた」と言っているし、ハスナの白木夏子代表も、「就職しても、起業するまで、自分は何者で、どう生きたいのかと考え続けていた」。

エシカルな活動をする者が輝いて見えるのは、「誰かのために動いている」からではなく、「自分のやりたいことができている」からかもしれない。社会貢献をする若者たちも、「楽しいから活動する」と答える。時間もお金も掛かる活動をなぜ楽しいと感じるのか。それは、自分の役割を認識できたからではないだろうか。

法政大学を卒業して岩手県陸前高田市に移住した三井俊介さん(24)も、ICU大学を休学して、人口8000人の島根県津和野町へ移住した福井健さん(23)も、過疎地で働いているが「豊かに生きている」と話す。

若者にエシカルが響く要因には、「自分を見失う者が増え、自分自身と向き合っていくにつれて、ソーシャル性が芽生えるから」ではないかと考えている。(オルタナS副編集長=池田真隆)