――若者の社会貢献熱を加速させている要因として、「かっこいい」の変化があると見ています。若者が「かっこいい」に抱く概念が、高度経済成長期と比べて、「上昇思考」や「成り上がり」から「やさしさ」や「仲間思い」などに変わっています。社会貢献やボランティアの概念と近づいています。だから、抵抗感なく社会貢献活動ができるのではないでしょうか。

香山:確かにそうかもしれません。しかし、注意したいのは、価値観が積極的に変化しているのかどうかです。まさに高度経済成長期と言いましたが、経済が上向きのときは「上昇思考」がかっこいいとされていました。

上昇思考がかっこよかったのは、その価値観を支える裏づけとなる強い経済があったからと考えられます。一方、現代の若者が「上昇思考」ではなく、「やさしさ」を選択する背景には、経済が良くないから選択せざるを得ないという消極的な選択とも考えられます。

だとすると、もし、日本が経済成長をしたときに、「やさしさ」の価値観を手放して、「上昇思考」型の価値観に戻る人は少なくないでしょう。「やさしさ」の価値観を熟考して選び取ったのではなく、経済状況によって選択させられたのでは、簡単に揺らいでしまう可能性があります。

――アメリカの心理学者アブラハム・マズローは、「マズローの欲求段階説」を唱えましたが、段階説には6段階があったとされています。マズローは第5段に当たる「自己実現欲求」のもう一つ上の欲求に「コミュニティー発展欲求」が来て、最後には自己的な欲求が、エシカルで利他的な欲求に到ると想定していたとされています。国の経済状況ではなく、教育水準の高い日本人が成長した結果、誰かのためにと考えるようになったのではないでしょうか。

香山:一理あるかもしれませんが、今の日本人が成熟していると思うことは難しいでしょう。例えば、中国や韓国に対する嫌悪感を見ても、みんなで共生していこうと考えているとは思えません。ポジティブな動きもありますが、一方では排除しようという動きもあります。

――ナンバー1を目指すのではなく、あらゆる分野に精通したオールマイティー的な動きを目指す傾向は若者にもあります。ベクトルが、自己のスキルを高める縦型もいれば、多くの人とつながる横型に向いている人もいます。

香山:ざっくりと言えば、現代の若者は2極化しています。横のつながりを求めて、「共生」や「他者のために」をキーワードに選択している人がいる一方で、それができない人もいます。異質な存在に敵意をむき出しにします。時代によって、若者たちは社会貢献よりの価値観に変化していますが、評価すべき点と、そうではない点もあります。


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