「自然と共に暮らす」生き方が少しずつ注目され、若い世代の地方へのUターンやIターンが盛んになっていますが、その一方で国土の7割を森林に覆われた日本は、多くの地域で今後どう森林を管理していくかが課題となっています。「楽しいこと」を通じて、森づくりに携わる人を増やしたいと活動するNPOがあります。(JAMMIN=山本めぐみ)
「人と森をつなぐ」きっかけに
東京を拠点に活動するNPO法人「森のライフスタイル研究所」(通称「森ライ」)は、都会に住む人と森とをつなぐゲートウェイとして、楽しさを取り入れた活動で、継続的に森づくりに携わる人を増やしたいと活動しています。
「毎日空気も吸っていれば、水も使っている僕たちの生活の源は森林。でも、多くの人が森林に対して無関心なのが現実。関心がなければどんなことも自分ごとにはならない。ごくごく普通の人が、当たり前のように森づくりに関わるような社会をつくりたい」
そう話すのは、団体代表の竹垣英信(たけがき・ひでのぶ)さん(48)。20年ほど前、新宿を歩いていて「緑を増やしたい」と感じたことが活動のきっかけだったといいます。
「森と人をつなぐ」をミッションに掲げ、「木をまなぶ」「木にふれる」「木をつかう」の三つの面から、広く一般の人たちや企業を対象に、楽しみながら森林と触れ合ってもらうきっかけづくりを行っています。
「いずれにしても、人に楽しく木や森林と触れ、感じてもらうことをモットーにしています。楽しくないと、継続するのは難しい。ワクワクもしない。よっぽど森とか森づくりが好きなら話は別ですが、多くの人はそもそも森林や木に興味関心が低い。楽しいというところから、森林とつながるきっかけを提供したいと考えています」
「楽しさ」が大切
2018年には22回に及ぶ森づくりのツアーを主催、各地の森林を訪れたという竹垣さん。ツアーの際には伐採や植林だけでなく、必ずBBQやイチゴ狩り、温泉といったエンターテインメントの要素を入れるようにしています。
「多くのツアーはバスで現地まで行くわけですが、そうすると朝の集合も早いし、帰宅は夜になる。ツアーの参加費プラス集合場所までの交通費も出して、家でゆっくりもできたのに、わざわざ1日をここに費やしてもらっている。そうであれば、参加してもらった森林での1日が有意義な1日であって欲しい」と竹垣さん。
「苗木を一本一本自分の手で植えること。時間をかけて一本の木を伐ること。人の手でしかできないことです。参加してくださる方たち一人ひとりに対して『あなたがいなければ、これはできなかった』という感謝しかありませんし、逆に参加してくださった方たちにとっては『自分も森づくりに参加できた』という充実感の体験でもあります」
「ただ、その側面だけだと少し重くなってしまうなとも思っていて、エンタメの要素はしっかり取り入れつつ、『森づくりに参加してどんなものかわかったから、もう今回で参加は終わり』ではなく、『楽しかったな』とか『またあいつに会いたいな』とか、継続して関わってもらえるような接点は残したい。どれだけ意義があることであっても、楽しくないとなかなか続いていかないですから」
初心者も安心して参加できるようサポートを徹底
そんな企画への思いが功を奏し、現在ツアーに参加する6〜7割はリピーターだそうですが、「初参加は大歓迎」と竹垣さん。
初めての人たちにとってハードルが高くならないようにと、作業に必要なヘルメット、長靴や革手袋を用意して身軽な格好で参加できるようにしているほか、救急救命士や看護師が毎回ツアーに帯同し、何かあった際には対応できるようにしているといいます。
「何もないのが一番ですが、ハチに刺されたり、顔を切ったりといったちょっとした事故も起こり得る。安心して参加してもらえるように、団体としてできる限りのことはしたい」と竹垣さん。
「森づくりのハードルをできるだけ下げること。そして、森づくりに参加してくださった方にプライスレスの価値を提供すること。それが僕たちの役割」と話します。
森を通じて企業や人が幸せになる
「木づかいプロジェクト」
企業を中心に行っている「木づかいプロジェクト」でも、楽しく木と触れてもらうことを何より大切にしているといいます。
「日本の面積における森林面積は約7割ですが、木材の自給率はたった3割。それはつまり、自分たちの国の木を使っていないということもそうですが、もしかしたら僕たちの利用が、他の国の森林を痛めているかもしれないということでもある」と竹垣さん。
このプロジェクトでは国産の木を使ったキットを企業に提供し、企業の環境や社会への貢献事業として社員の方たちがそれを作成することで、より多くの人が木と触れ、感じてもらうきっかけをつくっているといいます。
過去には、間伐材を使って積み木やカリンバ(楽器)、木毛(もくめん)を利用したシューキーパーなどを作成してきました。
「決められたプログラムやそれ用のキットがあるというわけではなく、担当の方とやりとりしながら、企業さんの目的や使える時間に合わせて企画をカスタマイズするようなかたちで作っています」と竹垣さん。「国産の木を使用するだけでなく、木製キットの制作を福祉作業所にお願いしたり、完成した積み木やカリンバを母子支援施設や児童養護施設などに寄贈したりと、森だけでなく、また企業だけでもなく、森を中心によりたくさんの方たちがハッピーになれるサイクルになっている」と話します。
さらに木に触れることを通じて、社員の中で新しいアイデアやコミュニケーションが生まれたり、リフレッシュできたりといった効果も期待できるといいます。
「森は、僕のすべて」
まだNPOや社会起業家といった言葉が市民権を得ていなかった時代にNPO業界に飛び込み、以来20年にわたりずっと森林に携わってきた竹垣さん。「竹垣さんにとって森林とは?」という問いに、次のように答えてくれました。
「僕をワクワクさせてくれるものであり、僕そのものですね。自分自身が社会とつながるものも森林だし、僕を笑顔にしてくれたり、悲しませたり、楽しませたりしてくれるのも森林です。少し歩けば森林浴で気持ち良くしてくれるし、参加してくれる方たちの笑顔を見たら僕もうれしいし、怪我をしてしまった人がいたら僕も悲しい。森づくりに縁がなかった人がツアーに参加してくれたら嬉し涙だし、まさに、五感を感じさせてくれる存在です」
「あとは、本当にこの活動を通じてたくさんの人に出会い、助けられてきました。いろんな人と出会わせてくれたのも森林だし、そこでの出会いがまた、僕を奮い立たせてくれます。ただ、毎回のツアーで、今回はどう楽しんでもらおうかとか、どうすれば参加者の方のワクワクにつながるのかを考えるので、僕の中では、森は戦いの場ですね」
「森にはいろんな側面がある。そして森に求めるものもみんな人それぞれ異なる。一人ひとりと森とが、カチッとはまるきっかけを生み出せたらいいなと思うし、そうして森を好きになって、森を応援してくれる人が増えてくれたらいいなと思いますね」
森林を増やす活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「森のライフスタイル研究所」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×森のライフスタイル研究所」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、東日本大震災による津波で失われた九十九里の海岸林を取り戻すためのプロジェクト「海岸防災林再生ツアー」で新たに植える苗木購入のための資金となります。
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、歯ブラシと並んでコップに入った一本の木の枝。当たり前の日常の中に、実は欠かすことのできない森林の存在を表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、9月30日~10月6日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・「森への無関心をなくしたい」。楽しいことを通じて、人と森をつなぐきっかけを〜NPO法人森のライフスタイル研究所
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,500万円を突破しました。
【JAMMIN】
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