エシカルなニットブランド「SHOKAY(ショーケイ)」のジャパンオフィス共同代表を務める林民子さんは、日本のファッション業界にエシカルという言葉を広めた仕掛人の一人だ。2008年12月号の「VOGUE」で8ページに渡りアジア各国のエシカルファッション特集が組まれたが、この取材のコーディネートを担当したのも彼女だ(オルタナS副編集長=池田真隆)

ショーケイ共同代表を務める林さん

2000年前半からエシカルという言葉が気になっていた林さん。本格的に日本に広めようと決心したきっかけは、2006年12月。ロンドンで、エシカル消費がテーマのカンファレンスが開催されたときだ。当時、欧米ファッションブランドの広報の仕事をしていた林さんは、出張ついでに参加したのだ。

「世界がよりハッピーに変わる鍵は、一人ひとりが、エコだけではなくて、より包括的に人や社会にも配慮したアクションを日々の生活の中で意識的に取り入れることなのでは。より良いお金の循環を生み出す物やサービスを積極的に選択するショッピングやライフスタイルの情報をウェブやファッション誌、イベントを通じて発信する活動をしていた。この活動中に、そんなライススタイルを形容する言葉である『エシカル』に出会った」と林さん。

「SHOKAY (ショーケイ)や世界最大のNGOが手掛けるバングラデッシュのブランドAARONG(アーロン)などを紹介した、「VOGUE」のエシカル フッション特集は、予想以上に読者の反応が良かったそうです」と話す。

2008年12月号の「VOGUE」でのエシカルファッション特集

近年では、百貨店などの催事で「エシカル」という言葉を見かける回数が増えてきた。この流れを林さんは、「昔に比べ、より多くのメディアが社会起業家やエシカルなブランドに注目し紹介され始めました。それに比例して、エシカル消費の機会や選択肢が増え、エシカルな消費行動が日本人の中にも少しずつ浸透してきたのでは」と見る。

想像力のあるショッピング

長年消費者から支持されている、持続可能なブランドほど、材料生産者、商品を作る職人、顧客などブランドに関わる全ての人と自然をリスペクトしながら、誠実なもの作りをしているところが多いという。

商品のデザインやクオリティーに自信のあるブランドほど、実はエシカルな要素を取り入れているにも関わらず敢えてそれを声高に謳わないところが多い。その理由として、「粋でかっこいいと思っているからではないか」と見る。

ファッション業界に長くいて、そんなブランドを観察してきた人間としては、共感する部分も多く、ショーケイもそんな本物のブランドを目指したい、と思っている。

だが同時に今までのファッションブランドと違い、成り立ちが少数民族の貧困問題をビジネスのノウハウで解決することを目的とし、会社が得た余剰利益をコミュニティーに還元しているソーシャルなブランドでもある。

ショーケイの役割として、ビジネスと社会貢献が両立しえることを世の中に発信することによって、それに刺激され、より多くのソーシャルビジネスが誕生してほしいとも思ってきた。ビジネスと社会貢献という相反する側面のバランスをとりながら、これまでショーケイを日本に紹介してきた。

「そのバランス感覚がエシカル消費を日本で広めるためにはより重要になってくるのでは。エシカルと謳わないで、社会にエシカルを定着させるには、メジャーメディア、ソーシャルメディア、両方の役割が肝になってくる」という。

「オルタナのような第三者的立場のメディア、またはソーシャルメディアによって、その企業やブランドのエシカルなストーリー、正確な情報が分かりやすく、魅力的に消費者に伝わる機会が増えていく。それと同時に私たちも、その商品が何で作られているのか?誰がどのように作っているのか?またそれが不要になったらどのように土に帰っていくのか?またその商品の得た利益を会社がどのようにコミュニティーに還元しているのか? 好奇心と想像力を働かせながら、積極的に情報を求め、より成熟した消費者になる必要がある」と林さん。

個々の想像力、そして消費者一人ひとりに社会を変える力があることを自覚しない限り、また、エシカルな意識が高くても行動に移さない限り、エシカル消費は広まらない、と林さんは言う。

「でも以外にもっとシンプルなことなのかもしれません。日本の魅力は何か?と外国人に聞くと、自然や人をリスペクトする文化と答える人が多い。以前よりエシカルの同義語はリスペクトだと感じていた。自然や人をリスペクトする気持を常に持っていれば、自ずとエシカル消費は広まっていくのかもしれない。それは、もともと日本人のDNAの中に脈々と流れているものなのだから。ただそれを思い出すだけで良いのかも。実は日本人が一番得意とし、世界に率先して行っていけることなのかも」(オルタナS副編集長=池田真隆)


SHOKAY


【林民子】
SHOKAY ジャパンオフィス 共同代表
エシカル ライフスタイルショップ DGBH (DoGood, BeHappy! )共同プロデューサー
NPO ソーシャルコンシェルジュ 主宰
外資系出版社、欧米ファッションブランドの広報などを経て、2007年1月、エシカルなライフスタイルやショッピングを提案する様々なプロジェクト(イベント、ワークショップ、商品開発など)を企画運営する「NPOソーシャルコンシェルジュ」を設立。また、社会問題の解決に取り組むNPOや企業のブランディングやPR、マーケティングのコンサルティングも行う。2008年、長年VOGUEの編集者であった姉と一緒にダブルツリー株式会社を設立し、「SHOKAY(ショーケイ)」の日本共同代表となる。2010年4月、フェアトレードやオーガニックコットン、障害者が作るアイテムなど、Good ストーリー&Good デザイン &Good クオリティのバランスの良いギフトアイテムを厳選したセレクトショップ「DGBH (DoGood,BeHappy! /ドゥグッド、ビーハッピー!)」を表参道ヒルズに10ヶ月の期間限定でオープン。現在、オンラインショップにて展開中。また、『世界を変えるオシゴト』(講談社刊)など、執筆やセミナーなどの活動も同時に行っている。


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