では、一体誰が日本国憲法に「国民主権」の規定を提案したのか。それは、ジャーナリストや憲法研究家、大学教授など私的な研究者集団から成り立つ「憲法研究会」である。同研究会が1945年12月26日、首相官邸に提出した「憲法草案要綱」に、「国民主権」の規定が記されていたのだ。
この草案は、当時のアメリカ側に衝撃を与えたとされている。草案が提出されてすぐの1月2日、アメリカの国務省からGHQに派遣されていた、最高司令官附合衆国政治顧問ジョージ・アチソンが本国の国務長官に、この草案を指して、「きわめて注目すべき内容である」と緊急の報告をした。
この草案には、「国民主権」だけでなく、「天皇は儀礼的・形式的長官にすぎない」とも書かれてあった。「国民主権」と「天皇の政治への完全無関与」の考えを持っていなかったアチソンは興奮気味に本国に伝えたとされている。(Hussey Papers, Reel No.5 国立国会図書館憲政資料室)
現憲法の根幹をなす「国民主権」は日本の憲法起草者たちが考えたもので、日本オリジナルな発想のもと誕生したことが分かる。これまで、アメリカから押しつけたとされている言い伝えは「誤解」だったのだと、前述した小西氏は述べる。
日本国憲法の核心部分の生みの親である「憲法研究会」とは一体どのような人物たちの集まりだったのか。そして、いかにして「国民主権」「天皇の儀礼的存在」を考え出したのか。次回以降、明らかにしていきたい。
参考文献:『憲法「押しつけ」論の幻』(講談社現代新書)著小西 豊治
『憲法九条の軍事戦略』(平凡社新書)著松竹 伸幸
『國破れてマッカーサー』(中央公論新社)著西 鋭夫