――なぜ、お客様に体験してもらうことが大事なのですか?

片桐:子どもの頃、毎週金曜日の夜、祖父に連れられて静岡県の伊豆半島へ行き、わずか5メートル四方の畑で農作業をしていました。

だから僕にとって農作業は苦ではなく、楽しい生活の一部だったのです。種から実になるまでに費やす労力を、実際に体を動かして知ることは、食べ物ができる過程に意識を向けることにつながります。

その体験こそが、食べ物や農業に対する意識を高めることに必要不可欠だと思うのです。農家でない僕なりに考えた結果が、都会に居ながら土に触れることで得られる心の安らぎや、楽しさを伝えられる事業だったのです。

――農業がもたらす新たな効果とは何ですか?

片桐:今年2月から、大阪市立総合医療センター(大阪市都島区)で、学校に馴染めず入院している18歳以下の子どもたちを対象にした農園を運営しており、子どもたちの心を安らげるという園芸療法の社会復帰プログラムの中で利用されています。

リハビリをする約80日間のうち、農作業にかかわれるのはわずか2、3日ですが、種まきや稲刈り、雑草抜きなどさまざまな作業を体験してもらえるよう、野菜の種類を選定したり、作業内容を考えたりしています。

できる限り子どもが希望する野菜を取り入れることで、より楽しんでもらえるようにもなりました。現在は、ネットで活動を知った大阪大学や関西大学の3人の学生が協力してくれています。いずれは、地元のボランティアの方が子どもたちの作業を支援してくれたり、畑の毎朝の水やりを手伝ってくれたりする体制ができればと思います。

――今後どのようなことに取り組んでいきたいですか?

片桐:多くの人が、食や農に興味を持つきっかけをつくりたいです。都会に暮らす農に関わりの薄い人でも魅力に思えるようなイベントを開催し、農業への入り口を広げることで、より多くの人に参加してもらい、農に関心を持つ人と人とのつながりを作りたい。

今まで農業に関心がなかった人が農作業を楽しんだ結果、食や農業の現状に興味を持つようになればと思います。その過程で、地域の家庭の味、食文化の伝承ができないかと考えています。将来、地域の人がコミュニティーの場として農園を運営し、伝統的な地域の食文化を伝え残す仕組みを作り上げていきたいです。

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