司会を務めた並河部長は、「これまでのエシカルな活動に理解が得られなかったことはあるか」と質問した。白木夏子代表は、エシカルが商品の付加価値としてプラスに働くことともあるが、まったく伝わらないこともあったと話した。
プラスに働くときは、「指輪にかかわるみんなが笑顔になる」というコンセプトに共感した場合だという。「結婚指輪は一生に一度のもの。一生身につけるので、購入するときには2人の価値観を話し合うことが重要。お互いのポリシーを共有した夫婦は長続きする」。
一方、商品の背景や社会問題に関心のない人には、あえて説明していないという。同社は、伊勢丹新宿本店にも常設店を出しているが、そこには「根っからのジュエリー愛好家」が多く訪れる。
愛好家に話すのは、「社会問題を絡めた生産背景ではなく、ジュエリーの楽しみ方」だ。「商品がどういう旅をしてきたのかを伝えて、純粋におしゃれとして楽しんでもらう」という。
実際、同社の公式サイトでも児童労働問題に対しての詳細な情報は掲載しておらず、あくまで商品の魅力を伝えている。商品の背景にある社会問題にかんしては、白木夏子代表個人の活動として講演会やインタビューなどで発信すると割り切っている。
「株式会社である以上は、一流のジュエリーブランドになることを一番に目指している。社会問題に対しては、その中でできることを考えている」(白木夏子代表)
ACEの白木朋子事務局長は、対照的な考え方を持つ。「NPOと企業の立場は異なる」と前置きした上で、「NPOとして、社会問題を伝えていくことが使命である。そして、社会問題の原因になっているビジネスのあり方に警笛を鳴らし、それを知らずに購入している消費者に現実を伝えていきたい」と話す。
HASUNAもACEも児童労働問題にアプローチしている。では、児童労働問題がなくなった世界とは、どんな世界なのか。二人が思い描いている究極のビジョンを話してもらった。
白木夏子代表
「児童労働問題の背景には、必ず企業がいる。なので、児童労働問題がなくなった社会とは、エシカルな価値観を持ってモノづくりする企業が増えている社会である。自社の活動を通して、企業に倫理観を持つことの必要さを訴えていきたい」
白木朋子事務局長
「児童労働をさせられている子どもと向き合うと、今の苦しい状況から抜け出したい気持ちもあるが、このまま家族を支えなくてはいけない現実もある。児童労働問題の背景には大人が正当な労働の機会を得られていないこともある。子どもたちを救うことだけでなく、大人側の問題も解決しないといけない。途上国だけでなく、世界全体の問題として捉えなければいけない」