ビジュアル書籍『100年前の写真で見る 世界の民俗衣装』は、1900年〜1930年代前半、つまり今から100年ほど前に、実際に着られていた世界の衣装を212点の貴重な写真と解説でまとめた一冊だ。本書は「日々の暮らしの中の衣装」「家族の肖像、同郷の絆」「特別な日の特別な装い」「アッパークラスのよそおい」「子どもの姿」「学び舎の若者たち」と6つの章に分かれており、ヨーロッパ、中東、アジアなどの地域で、当時、実際に着用されていた民俗衣装を紹介している。
たとえば、カバーでも人目をひく「アルジェリアの踊り子」だが、頭から垂れているのは、金貨である。移動の多い遊牧民族は貴金属を財産として身につける習慣があったそうで、そういった知られざる文化を象徴するような一枚となっている。その他にも、頭上をスパンコールの華やかなビーズで高く盛った装飾と、キリリと美しいストライプ柄のワンピースに身を包んだ「ポーランドの花嫁」にも注目だ。当時のパレスチナに住む多くのユダヤ人が多く着用していたという、色鮮やかなローブを纏ったエルサレムの裕福な男性など、さまざまな衣装が登場するが、それら全てが、単に興味深い写真として視覚に訴えかけてくるだけでなく、装いの奥にある文化的背景に思いを馳せずにいられない。
さらに写真を眺めていると、100年前の人々は現代より「装う」ことに真摯で、なおかつ装うことを楽しんでいた、という様子が見えてくるような気がする。それは「一点一点が手作りされ、大切にされていた」という事実と少なからず、関連性があるのではないだろうか。
かつて世界はこんなにも多様性に満ちていたのに、いまやどこへいっても似たような装い、似たような生活スタイルが流通するグローバル社会。産業革命によってもたらされた機械による効率化は、その土地の風土や文化に根ざした地域ごとに違う特色を、均一化へと導いた。装うとは何か? また真の豊かさとは何か?ページをめくりながら、世界を横断するような楽しさに出合えるだけでなく、世界を改めて捉え直す、新たな視点を与えてくれそうな一冊である。
『100年前の写真で見る 世界の民族衣装』
発行:日経ナショナル ジオグラフィック社
発売:日経BPマーケティング
¥2730(税込)
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