照明を消して真っ暗になった体育館。おもむろに始まったのは、躍動感に満ちたマリンバの演奏。そこへ教諭たちに導かれて小学1・2年生の児童120人が入場する。これから始まる非日常の世界に高鳴る胸を抑えきれないように、あちこちで上がる歓声。暗闇の中で女性ダンサー2人が、生命力を解き放つように舞い踊ると、子どもたちは手を打ち鳴らし、会場は一気に熱気に包まれてゆく。ここは大阪府羽曳野市立高鷲北小学校。音響機器メーカーTOAが主催する「TOAミュージックワークショップ」参加14校の一つだ。(オルタナS関西支局特派員=松本幸)

プロのアーティストのパフォーマンスと呼びかけに、 自然と体を動かして応える子どもたち

「まだ知らない音楽との出会いを通して、心を開放して表現する楽しさを感じてほしい」という思いを込めてTOAが05年にスタートしたこの小学校向けワークショップ。現在、NPO法人「子どもとアーティストの出会い」、ジーベックとの共同企画制作で開催されており、プロのアーティストが子どもたちをナビゲートする。

この日は安永早絵子さん、安永友昭さん、山下嘉範さんからなる打楽器ユニット「アニマ・リズム」、大歳芽里さんと鈴木みかこさんのコンテンポラリーダンスユニット「メリ☆ミコ」、司会進行役のふくだひと美さんが、子どもたちの想像力をアフリカの大地へといざなう構成だ。

「今日のワークショップで大切なのは、目と耳と頭をフルに使うこと」。そんな出演者からの呼びかけに応えるように、目を輝かせる子どもたち。ゾウ、鳥、ゴリラ、ワニなど、アフリカの野生動物をイメージした音楽と、ダンサーの動きに導かれ、初めはストレッチのようにゆっくり、次第にダイナミックに体を動かしていく。

その後、音楽とダンスのパフォーマンスステージが始まると、カホン、ジャンベ、マリンバといった民族打楽器からあふれ出すプリミティブな力強い音楽につられて、自然と手でリズムを打つ真似をしたり、体を揺らしてビートに身をゆだねる子も。

アフリカの夜明けをイメージした音楽から始まったミニコンサート。音楽は次第に草原を駆け巡る動物の躍動感へと変わり、子どもたちを魅了する

ミニコンサートですっかりボルテージの上がった子どもたちは、「次は体を使ってみんなで音楽を作ってみよう!」との掛け声で、手拍手や足踏みのほか、体のいろんな部位を叩いて生まれる音づくりを実践。単純な音も、全員で心をひとつに合わせれば音楽になる手ごたえに、会場のムードは高揚してゆく。続く「アニマルダンス」では、アーティストを囲んで、踊りがひとつの輪になり、体育館を駆け巡ってフィナーレ。

そして迎えた最後の挨拶タイム。メンバーから感想を聞かれ、次々に手を挙げては異口同音に「楽しかった」と話す子どもたち。中には「普段はおとなしくて自分からは手を挙げないタイプなのに」と担任教諭を驚かせた子もいた。ほかにも、普段は学校嫌いな子が「このダンスをママに見せる」と満面の笑みで話したケースもあったという。

同小学校の遠藤京子校長は「子どもたちが入場するところから退場するところまで、心を開放させる工夫や演出があって、学校の普段の指導の枠組みとは違うアーティストのアプローチは、私たちにも勉強になりました。子どもたちの記憶に残る午後だったと思います」と話す。

「教室では見られないような、前のめりになって楽しんでいる子どもたちの姿を見ることができて、こんな表情もあるんだと自分自身にとっても発見になりました」と話すのは2年生の担任教諭だ。

音楽と踊りの輪が広がって、体育館いっぱいに広がる

音楽の楽しさ、そして表現する楽しさとの出会い。その先にあるのは、「未知の自分の発見」だ。

「いつも見慣れた学校とは少し違う、自由で非日常な場を作ることで、子どもの中に眠る新たな可能性を引き出せればというのがこのワークショップの狙いです。そのためにも毎回が試行錯誤の連続。出演アーティストやスタッフとディスカッションを繰り返しながら、内容をブラッシュアップしています」と、このワークショップの企画担当であるTOA株式会社・広報室の吉村真也さん。

同社は、2010年にこのワークショップを含めたさまざまな社会貢献活動で、「メセナアワード2010文化庁長官賞」を受賞している。2011年より関西圏以外にも活動の幅を広げ、今年は東北から九州まで、公募などで選ばれた11府県14校でのワークショップ開催となった。来年1月24日の最終公演まで、残り7校を回る予定だ。

TOAミュージックワークショップ:http://www.toa.co.jp/mecenat/tmw/