2011年1月、ブラジルのリオデジャネイロ州ペトロポリス市の山岳部を中心に、豪雨による大規模な土砂災害が発生した。日本で大きく報じられることはなかったが、被害は死者数900人以上、全壊戸数1万戸以上にも上り、今なお多くの人が行方不明のままとなっている。過去に例のない大災害を契機に、ブラジルにおける「防災」が大きく見直されようとしている。当地でJICA専門家として活動する、武士俊也さんに話を聞いた。(オルタナS掲載特派員=清谷啓仁)

災害現場の様子

■2013年7月、JICA技術協力がスタート

防災政策に力を入れるブラジル政府の要請を受け、JICAは今年度7月より、「統合自然災害管理国家戦略強化プロジェクト」を開始した。これまでのブラジルでは災害発生後の対応に重点が置かれ、災害を軽減するための防災対策が行われてこなかった。防災面においては不十分と言わざるを得ない状況であった、と武士さんは話す。

日本においては、①災害リスク地域の土地利用規制、②警戒避難、③防災インフラの整備、が土砂災害対策の三本柱とされている。一方ブラジルでは、都市開発に伴う土地価格の高騰によって災害リスクの高い地域への居住を余儀なくされる人々、降雨観測システム及び予警報発令システムの未整備、さらに斜面崩落防止・砂防ダム等の砂防施設や河川の改修等の洪水対策施設の未整備などが散見され、この度のJICA協力では特に①、②のソフト面における防災能力を強化していく見込みだ。

「現在は、ブラジルの災害対策の仕組みを一つずつ確認していっている状況です。また、どのような自然現象が災害へと繋がっているのかもきちんと見極めていかなければなりません。日本は日本で起こる災害を基にした防災システムを構築しており、それで一定の成果を上げていると言えるでしょう。ですが、国が変われば災害の種類や規模は変わるため、日本の防災システムをそのままブラジルに移行すれば良いというわけでもありません。現地の人たちと議論を重ねながら、ブラジルに適した防災のあり方を見つけていければと考えています」(武士さん)

■日本の防災技術が世界へ

防災分野における日本の強みは、過去に発生した災害したデータを細かく積み上げ、それらを基にして、法制度を含めた防災計画から実行までが包括的に行われることだという。「どのような現象が起これば、どれほどの被害に繋がるか」という科学的根拠に基いて、国・県・市町村がそれぞれの責任範囲で役割を果たすことで、被害を最小限に留めるよう務めている。

また、日本人気質な「きめ細かさ」という点も、他国からは高い評価を受けている。例えば、日本では土砂災害は「土石流、地すべり、がけ崩れ」という3つの言葉に区分されており、それぞれに応じた対策が細かく制度化されている。一方、他国に目を向けると「ランドスライド」という言葉に集約されている場合が多い。もちろん他国でも日本と同様の現象が起こるとは限らないが、こうしたきめ細かな対応というものは、世界の防災に役立てることができるだろう。

「日本の防災システムをそのまま移行するというのではなく、こうした防災における考え方が他国の参考になるのではないかと考えています。ブラジルにはブラジルに適した防災システムが必要です。ワークショップなどを通して現地の政府関係者や技術者と議論を重ねながら、試行錯誤していくしかないと思っています」と武士さんは話す。

武士俊也さん(右端)

■変わるブラジルの防災

2011年の災害を契機に、ブラジルの防災が大きく見直されようとしている。法制度やインフラ面、さらには人材育成不足などの課題に対応するため、防災の知識と経験を持つ日本に学ぼうと、ブラジルの関心と期待は高まってきている。

ペトロポリス市防災局のラファエルさんは、「これまでのブラジルは、災害が起こってから対応するということに重点を置いてきました。日本のように全統計的にデータを記録するということも、不十分であったと言えるでしょう。2011年の悲劇を繰り返さないためにも、災害データに基いて適切な対策がとれるよう、強固な組織と体制をつくっていかなければなりません。災害そのものを無くすことはできませんが、被害を最小限に留めることは人間の力でできることなんです。ブラジルの防災活動はまだまだこれからですが、だからこそ日本から様々な技術を学んでいきたい」と期待を膨らます。

「災害大国」と呼ばれる日本だが、私たちの培ってきた防災への知見が世界へと広がっていこうとしている。一人でも多くの命を救うことに繋がればと、願うばかりだ。

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