「授業では課題だけを提示します。決められた『答え』というものはありません」――こう話すのは、Qremo(クレモ)渋谷校で講師を勤める増田悠さん(26)。同校は、5歳から高校生までを対象としたIT教室で、ゲームアプリのプログラミングや3Dプリンターを使ったものづくりを教えている。子どもたちは最先端技術を駆使し、遊ぶように学び、学校や塾とは違った顔を見せる。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
Qremoを運営するのは、障がい者の就労支援事業などを行うLITALICO(リタリコ、東京・目黒区)。渋谷と川崎に教室を持ち、約400人が通っている。学年は小学生が8割ほど。コースは6つで、アプリ開発やウェブデザイン、ロボット作りなどがある。
パソコンを使う授業では、子どもたち1人に1台のマックブックを貸し出す。マサチューセッツ大学で開発された教育ツールを導入し、世界水準のICT教育を行っている。
■「答え」を自由に考える
4月11日、クレモ渋谷校でロボコン大会が開催された。大会に参加したのは、ロボットテクニカルコースに通う10人弱の子どもたち。レゴブロックで作ったロボットを、プログラミングで動かし、コースタイムを競い合った。
講師から大会のルール説明が終わると、子どもたちは、曲がる方向・進む距離などを考え、自分のロボットにプログラミングしていく。ロボットはレゴブロックで作られているので、大きさや形はそれぞれ異なる。
ロボットを曲げるときに用いられるのは、「超音波センサー」か「タッチセンサー」のどちらか。超音波センサーは前方10センチに障害物を感知したら作動し、タッチセンサーはモノにぶつかったときに作動する。
距離を考えて、プログラミングしているので、論理的には問題なくコースを完走するはずだが、実際そううまくはいかない。スタート地点でロボットの置き場所が数ミリでもズレていたり、ロボットの部品をしっかりとはめていないと、想定外の走りをし、完走することができない。ソフトだけでなく、ハード面も考えないとクリアできない。
子どもたちはレース本番までに許された5回の試し運転の機会を生かし、調整に努めた。
女の子で唯一大会に参加した、小学5年生の黒坂知世ちゃんは「課題を見つけて、クリアできたときが楽しい」と話す。学校での授業と違い、決められた「答え」がないので、「自分で自由に考えられるところが好き」と言う。
知世ちゃんは小学校低学年から、部品を分解するのが好きだった。シャープペンの分解から始まり、今ではIT機器も分解する。分解して、きれいなネジを見つけては宝物として集めているという。
■「便利になった世の中だからこそ、課題を考えて」
Qremo渋谷校のロボットテクニカルコースを立ち上げた増田悠さんは、90分間の授業では「答えは提示しない」と話す。「適切な課題を発見してもらい、その課題の解決方法を考えさせている」。
増田さんは、「遊ぶように学んでいる」と言うが、その根拠は子どもたちの授業に対する姿勢にある。授業では、決められた「答え」を探すのではなく、自分で定めた課題を解決するために、頭を使う。講師は子どもが出した「答え」に「正解・不正解」と判断を下さない。子どもたちの発想力を縛らず、自由に考えて、トライできる環境をつくっている。
子どもたちの発想力に驚かされることは少なくない。増田さんは、「子どもたちから、こちらも学ぶことが多い。ここで学んだ子がどう成長するのか楽しみ」と期待する。
Qremoの特徴は、最先端な教育ツールもさることながら、スタッフが20代中盤と若いということもある。Qremo渋谷校は2014年4月に立ち上がったが、リーダーは当時25歳の島田悠司さんが務めた。
島田さんは、「IT技術の進化で、世の中が便利になったが、モノが動く『仕組み』がますます見えづらくなった」と指摘する。「機械の利用者は、動く仕組みを知らなくても使えてしまう。便利になった世の中だからこそ、自発的に課題を考える習慣をつけてほしい」と話す。
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