人身取引問題に取り組むNPO法人ポラリスプロジェクトジャパンは、中高生と協力して、性売買に関する啓発マンガを作っている。国内での人身取引被害者は年間で54000人を超え、その多くは女性や子どもたちだ。強制的に性産業で働かされている彼女たちを救う方法をマンガで学ぶ。(オルタナS副編集長=池田真隆)

人身取引の最終地点といわれる日本では、多くの少女たちが被害にあっている

2012年、買春など子どもの性を商品として狙った犯罪件数は4000件以上になる。性の問題や買春・売春問題は、家庭で話すことがタブー視されがちで、子どもたちは学ぶ機会が少ない。

そこで、中高生たちをマンガ製作に巻き込み、彼女たちの知りたかったことや意見も取り入れながら、同世代への意識喚起を促す。性被害や自分の身体を守る方法、被害にあったときの対応方法を知ってもらうことで、子どもたちを買春・ポルノなどの性被害から守ることが狙いだ。

現在は、このプロジェクトの企画・製作費などをクラウドファンディング「シューティングスター」で集めている。目標金額は100万円で、残り49日で約72万円が足りていない状況だ。

マンガは、全国の中学校や高校、児童福祉施設で配布する予定だ。目標金額を超えた場合、マンガの発行に加えて、無料携帯アプリでの配信も考えている。

ポラリスプロジェクトジャパンは、2005年から日本で唯一の人身取引専用の相談窓口を開設し、3000件の相談に対応してきた。未成年からも、「虐待されるから家出したけど、会った男に騙されて風俗で働かされてる」「出会い系サイトで脅されて裸の写真を送ってしまった」などの相談が絶えない。

人身売買を取り締まる法律がないことや身近に相談できる人がいないことで、被害者は増え続けている。中でも、人身取引に関する意識の低さが問題視される。

同団体では、2012年5月、日本で初めて一般生活者を対象にした人身取引問題についての緊急意識調査を実施した。調査方法はインターネットを利用し、調査対象は1000人。

結果、人身取引についての認知は9割だが、日本に人身取引被害者が送られていることへの認知は34.9%、日本人が被害に合っていることへの認知は18.7%だった。

日本の人身売買への対応は、海外から厳しい評価を受けている。「人身取引年次報告書2012」では、日本は、10年以上連続で人身取引根絶の最低基準を満たさない国(第二階層)に位置づけられている。先進国では最低ランクで、コソボやルーマニア、ルワンダと同じレベルである。

日本が第二階層に位置づけられた理由として、包括的な人身取引対策法がないことや、人身取引被害者用シェルターがないこと、東南アジアへの児童売春ツアーの防止策が十分ではないことなどが上げられている。

ポラリスプロジェクトジャパンの藤原志帆子代表は「メディアでさえも人身取引問題に対する関心が低い。言葉は知っているが、実態までは知らないのが現状。人身取引根絶に向け、一人ひとりの国民の意識が必須」と話す。

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◆被害の認識のために◆(ポラリスプロジェクトジャパン代表藤原志帆子さんから)

人身取引の被害者は、毎日皆さんが接する人と何ら変わりがないように見えるかもしれません。以下のような小さなサインを見つけることで、被害者を見分け、適切な支援を提供することができます。こちらの資料は、実際に警察や福祉関係者の研修資料としても使われています。

□行動をコントロールされている
□仕事を変えたり辞めたりできないと言う
□あざや傷などのけがを負っている
□恐怖心をいだき、ふさぎこんでいる
□日本語が母国語でない
□パスポートやその他の身分証明証をもっていない

多くの場合次に挙げるような一見目立たない支配の方法が使われます。
①生活を監視する。:外部との接触を極端に制限し、他人との接触を禁じる
②借金や不当な契約による拘束
③家族や友人、同じ出身地や民族の仲間から孤立させる
④土地勘を持たせない
⑤家族を傷つけると脅迫するなど精神的に拘束する
⑥被害者の家族に、『(強制売春や借金など)被害の状況をばらして、被害者を辱める』と脅迫する
⑦警察などに助けを求めても捕まる、(外国人の場合)強制送還させられる、などと脅す
⑧被害者の金品を没収し、『安全のために』管理することで逃げる気力を失わせる
⑨(外国人の場合)言葉や文化が壁となり、孤立している
⑩(外国人の場合)不法滞在、不法就労の状態にある
⑪(外国人の場合)パスポートを取り上げられている

加害者は巧妙な手段で、被害者に「何をやってもだめだ」「もう逃げられない」という無力感や絶望感を持たせるような支配を繰り返します。さらに、売春や不法就労などの違法行為を強制されている場合には、被害者は自分から援助を求めにくい状態に置かれています。