都知事選に立候補している細川護熙(もりひろ)元首相(76)は29日、今選挙では初となる他候補者との対談を行った。その相手は、起業家の家入一真氏(35)だ。初対面した両者は、それぞれが掲げる政策やオリンピック、目指す東京の姿について1時間ほど話し合った。(オルタナS副編集長=池田真隆)

家入氏は、自身のアイフォンを使い対談模様を中継した。12000回以上再生され、話題となっている

家入:都知事選に出馬表明したとき、「政策も公約もまったくない」と言いました。まずは、みんなから意見を集めて、それを精査して、選挙期間中に発表しようと考えていたからです。今はツイッターなどを使って意見を集めていて、31日には発表する予定です。

もちろん前代未聞の方法なので、「結局何がやりたいのか分からない」「自分の軸はないのか」と政治評論家の方々から、すごくお叱りを受けました。でも、今の政治に、若者の意見を吸い上げる場はないと疑問を感じていました。

細川:それは、面白いアイデアだと思いますよ。社会のことを考えるためには、政治家の意見だけでなく、いろいろな人からのアイデアがあって良いのです。民主主義とは本来そういうものです。家入さんはネットでアイデアを募っているので、若者が多いのでしょうか。

家入:主に20~40代ですね。都民以外からの意見も集まっています。地方から見た東京の視点を得れるので、参考にしています。また、ぼくは街頭演説をしないのですが、理由があります。

それは、車の上から人を見下ろして一方的に、「これが答えだ」といった話し方をしますので、それがどうも嫌なのです。政治家から「答え」というのを押し付けられますが、実際は、それが「答え」ではなかったりもします。

一人ひとりの意見を聞いて、当事者の気持ちなどを考えた結果、政策になるのなら良いのですが、候補者からの一方的なコミュニケーションではできません。だから、ネットを使って同じ立場から意見をもらう手法を取れ入れたかったのです。

でも、ぼくは政治の世界に入ったこともなく、生意気にこんなことを言っていますが、一生懸命演説をしてきた方を目の前にしてこのようなことを言うのは、失礼なのかとも思っています(苦笑)。

細川:実は、私は人前で話すことが最も苦手なのです。私は小学生の頃から学芸会でお腹を壊していました。ですから、まったく政治家向きではないのです。運動会や学芸会などで目立つことは一切ありませんでしたね(笑)。

日本新党のときに、街頭演説を銀座や数寄屋橋の交差点でよくしていましたが、今またそこを通るとゾッとします。よくあんなとこで、厚かましくやっていたなと(笑)。だけどね、これがまた不思議なもので、やっていると、人が集まってきて、そのうちにだんだんと熱が入ってきます。車の上に立つまでは、嫌で嫌でしょうがないのですが。

たぶん、そう思うのも、本当に政治が嫌いだからだと思います。大人たちの思惑や足の引っ張りあいが盛んに行われるドロドロとした世界です。若者には、「政治の世界には、できる限り近づかないほうが良い」とまで言ってきました(笑)。

家入:テレビや新聞から見ていても、そのドロドロ感は伝わっていました。

細川:政治の世界は、男たちの権力争いからできています。まともな感覚を持った人は少ないでしょう。あることないこと言って、足を引っ張りあうのです。

家入:若い人がそういう世界をぶち壊そうというのは良いのでしょうか。

細川:良いと思いますよ。でも、なかなか壊れないですよ。原子力ムラみたいに、関係各所にお金を注ぎ込んで手懐けていますからね。でも、切り込んでいかないとしょうがない。

今回選ばれる都知事も、本当は若い人にやってもらいたい気持ちが強い。原発だって、廃炉にするまで、40~50年はかかる。今、お母さんのお腹にいる子どもたちの世代にまで続きます。

だから、若い人じゃないと見届けられない。私たちみたいな、「60~70代の世代が出てくるとは、どういうことだ」という議論がもっと起きても良いのです。

家入:ぼくも脱原発なのですが、原発について聞かれたときに、「あなたはどう考えていますか」と聞きます。こう聞くと、即答で答える方、ムスっとする方、考え込む方などがいます。

本音は、脱原発ではなく、脱・脱原発と言いたいのですが、代替案がないから言えません。だから今、みんなから意見を集めています。
細川:私は、知事の仕事は、都民の命と暮らしを守ることだと考えています。近い将来、予測されている首都圏直下型地震や少子高齢化への対応など課題は山積みですが、なかでも原発の話だけは最も慎重に考えなくてはいけません。

事故以来、多くの人が仮設住宅で暮らし、福島周辺の被害はすさまじいものです。東京の近くでも、浜岡、柏崎刈羽、東海第二など危険な原発がいくつもあります。

もし今度同じような事故が起きたら壊滅的な事態が起きるはずです。福島の事故では停電になり、水もなくなり、ほとんどの外国人はすぐに帰国しました。今度の都知事選の争点は原発ではないとされることもありますが、これだけの被害があり、福島や新潟から便利さだけを享受して、廃炉作業や核のゴミ処理など嫌なことを地方に追いやっている体制については、最も話し合わなければいけないことです。

それなのに、政府が言っていることはおかしい。終息もまだしていないのに、基幹エネルギーとして、原発を利用すると言っている。核のゴミ処理にしても、どこも手を挙げないので、政府が地方を指名して押し付ける考えです。

■ネットから聞こえる若者の叫び

家入:ぼくは、「居場所」をキーワードに掲げています。それは、ぼく自身が、ひきこもりだったからです。ぼくは中学2年生の頃からいじめられて、中高はずっとひきこもりになりました。対人恐怖症になり、ネットの向こう側にいる人だけが友達でした。

そのときに、ちょっと違った人生を送っているなと、外で友達とワイワイ話している同世代を見ながら思いました。「あぁ、レールから外れてしまったな」と。だから、自分で居場所を作ろうと思い、会社を起業しました。

今では、「学校と家」「会社と家」以外に居場所がない気がします。だから、いじめが原因で自殺したり、働きすぎででうつになってしまうのではないでしょうか。

そこしか居場所がないと、どこにも逃げることができません。年に3万人が自殺しているので、1日に100人が自ら命を絶っていることになります。

ぼくのところに意見をくれるのはひきこもりの子が多いです。実際に外に出歩いて声はあげられないけど、ネットだと声を出せるので。
よく、今の若者は草食系と言われますが、若者は追い求めることをしなくなったからだと思います。高度経済成長期の中では、「経済成長」「拡大」など国全体で目指すべきものが明確にありました。でも、一通り生きるために必要なものは揃っているし、事業規模を拡大し、お金を稼いでも、震災など災害が起きるとすぐになくなってしまう。

そういった状況で生きる若者の気持ちや意見をすくいあげて聞きたいのです。これまでは、家から出れなくて悶々としている人の気持ちは、政策に反映されていませんでした。

でも、今はネットを使えばそれができます。だから反映したいのです。若者が政治に興味がないのは、若者の声が反映されなく、その結果、遠い世界でしていることと感じてしまうからだと思います。政治をそのように考えてしまうのはもったいないこと、だって、政治は身近なことだから。

細川:これまで意見が反映されなかった人の声をすくいあげることは、すごく良い。政治を嫌っていた人や無関心だった人が投票にいけば盛り上がりますからね。

■2020年東京オリンピックについて

細川:オリンピックに関しては、気が重かったです。福島であれだけの事故があり、その処理がまだできていないので。
でも、決まってしまったからには仕方がありません。やるからには、2020年を目標として、原発を辞めて、自然と共生して復興した東京の姿を世界に見せたいですね。今、ヨーロッパの先進国では、次々に自然エネルギーに切り替えています。ドイツでもスペインでも、デンマークでも自然エネルギーで経済成長しています。

東京オリンピックでもバイオマス・地熱・火力・風力・太陽光を使い、原発のエネルギーを一切使わないで開催したい。

家入:ぼくは、オリンピックに対してあるアイデアを持っています。冗談のように言われますが、同時期に裏オリンピックを開催したら良いのではと思っています。

ぼくは、ずっとスポーツが苦手でした。体育の成績はずっと1で、いつも授業中にいじめられていた、苦い思い出あります。オリンピックはスポーツの祭典として素晴らしいのですが、スポーツができない人でも活躍できる祭典があっても良いと思います。

アニメや音楽など文化に特化したオリンピックです。世界中に、家から出られなくて、色々な思いを抱えている子がいるのは、日本だけの問題ではないはずです。セクシュアルマイノリティーや少数派、社会的弱者という社会から切り離された人たちを、東京は受け入れているということを世界に発信したいですね。

いつもスポーツができる人がリーダーになっている傾向にありますが、スポーツができなくても、リーダーとして活躍できるはずです。

細川:それは面白いですね。開催することは、十分可能だと思いますよ。私の家内は20年間ほど、知的障がい者が競い合うスポーツの祭典「スペシャルオリンピックス」のサポートをしています。実社会に居場所を持てない人たちをどうフォローしていくのか考えることには、すごく共感します。

■有権者へのメッセージ

家入:ポスターのキャッチコピーにもありますが、「東京をぼくらの街に」というメッセージを伝えたいです。政治を遠く感じてしまっている状況を変えていきたいです。

政治を政治家に任せておくのはもったいないこと。もっと身近に感じて、一人ひとりが関心を持ってほしい。それは小さな疑問で良くて、例えば、補修されている道路と、いつまでたっても補修されていない道路の違いは何かとか、なぜいじめられているのに学校に行かなくてはいけないのかなど。

そういった小さな社会の問いは政治とつながっています。そういう疑問から、行動を起こして、東京をみんなでつくっていく社会にしたいです。東京に住んでいながら、いつのまにか東京が遠くなっている気がします。

細川:これから日本の人口は減少していきます。100年後には4000万人となり、江戸時代の規模になります。そういう状況で、大量生産・消費は違うはずです。

価値観の転換が必要です。今度の都知事選は「価値観」が問われる選挙でしょう。これまで原発とプラスティックで成長してきましたが、これからは水と緑と風と太陽で成長していくべきです。

日本人が共生してきた自然をエネルギーに変えるときが来ました。ヨーロッパはどこも、そうして成長しています。日本も技術はあります。都知事選が、日本の文明を転換していく良いきっかけになるはずです。もちろん、よっぽどがんばらないと今の政府を変えることはできませんが。

対談中継はこちらから⇒http://twitcasting.tv/hbkr/movie/36182175

家入一真公式サイト
細川護熙公式サイト