「医療用かつら」という側面からがん患者のケアが行われている。完全な不治の病とは限らなくなってきたものの、がんの治療にはいくつもの険しさが付きまとう。直接的な痛みだけでなく、薬の副作用による脱毛など精神的なものも多い。精神的なケアとしてかつらによる患者への支援が少しずつ増えてきている。(オルタナ編集部員=佐藤理来)

千葉県市川市の美容院「アンジェリーク」では医療用のかつらを患者に合わせてカットするサービスを行っている。かつらを購入して最初のカットだけでなく、1年間のメンテナンスや治療後伸びてきた自髪のカットまでを含めたプランとして提供。定期的に美容室へ通うというプロセスを通してケアを行っている。

山形県は2014年度から、がん患者が医療用かつらを購入する際に補助金を出すことを決定、500万円の予算を編成。かつら購入費という支援の形は全国初だ。かつらそのものの価格帯は広いが、日常的に使えて自然な仕上がりになる医療用かつらとなると5万円~20万円ほどかかってしまう。治療自体にもお金がかかるため、かつらまでは手を出せないという患者も多かった。

ウィッグリング・ジャパンは2010年からかつらのレンタルを行っているNPO法人だ。既にがん治療を終えた患者からかつらの寄付を募り、今治療中の患者へと提供するという試み。会員になって3000円の年会費を納めれば利用でき、1年を期限に無料でレンタルができる。

がん治療時の脱毛には個人差はあるが、治療開始1カ月ごろから徐々に抜け落ちてゆく。がんそのものではなく抗がん剤の副作用として現れるもので、治療が終わると少しずつ生えてくる。しかし患者にとって「髪が抜け落ちた」というショックはやはり大きいという。

2014年2月に発表された国連の報告によると、世界のがん患者数は2030年までに1.5倍に増えるとされている。発症には地域差があるものの、人口比を考慮すると先進諸国の罹患率は高い。患者とその家族などを含めると多くの人が関わる病気となっていくだろう。病気そのものの治療はもちろんだが、こうした精神面でのサポートの発達も今後期待される。