近年経済成長率7%前後と著しい発展を遂げるカンボジアであるが、その一方で毎年12万ヘクタールの大規模な森林減少が起こっている。直接的な要因は、違法伐採の横行、農地への転用、森林火災などであるが、脆弱な行政運営能力、地方の貧困、人口増加などがその遠因となっている。森林減少・劣化の抑制などによる温室効果ガスの排出削減の効果が高いと見込まれる同国は、国際協調枠組であるREDD+パートナーシップに参加し、JICA等のドナー機関と共に持続可能な森林経営を目指している。森林保護のためには、どのような取り組みが必要とされるのだろうか。JICA企画調査員の内田東吾さんに話を聞いた。(聞き手・オルタナS特派員=清谷啓仁)

取材を受ける内田東吾さん

■REDD+とは

REDD+とは「Reduction of Emission from Deforestation and forest Degradation」の略称で、途上国が自国の森林を保全するため取り組んでいる活動に対し、経済的な利益を国際社会が提供するという試みだ。

森林保護に対してより高い経済的なインセンティブを提供することで、森林破壊と温暖化を防止しようとしている。貧困削減など解決すべき課題を抱える途上国にとっては、温室効果ガスの削減と地元住民の生計向上や経済開発といった開発便益を両立させるアプローチが必要とされている。

経済的なメリットだけでなく、森林保護によって生物多様性が維持できることにも大きな意義がある。地元住民にとっては森林は資源であり、それらを糧に生活を成り立たせることが可能であるからだ。

経済成長を続ける途上国で、開発と森林保全のバランスを考慮した政策作りを支援していくことは容易ではないが、歴史的な地球環境破壊への責任を問われる立場にもある先進国が果たさなければならない役割だ。

■カンボジアの森林減少を食い止める

カンボジアの森林面積は50~60%だが、加えてその減少率が高いのではないかと懸念されている。世界平均が約30%であることを考えると決して低い数値ではないが、環境問題への取り組みは生態系や人の健康に影響が出てからでは手遅れとなってしまう。

日本のような山に囲まれた国ではアクセスの面から伐採が労力に合わないことが多く、森林が開発の波に飲まれにくい。政府の保護対策も功を奏し、日本は約65%という世界でも有数の森林面積を誇っている。

一方のカンボジアは、国土全体に低地が続いており、アクセスの良い道路さえあれば簡単に伐採が進んでしまう状況にある。低地にありながらも同国にこれほどの森林が残っていることは、非常に貴重なことだという。

「隣国のタイやベトナムでは、経済成長の過程で森林面積が約30~40%と大きく減少してしまった過去があります。もちろん現在は保護活動が行われていますが、森林資源への需要は変わりません。つまり、陸続きの国は往々にして供給国として違法伐採が蔓延してしまうケースが多いのです。東南アジアの中でもカンボジアの所得は低いので、何も対策をしなければたとえ違法だとしても森林を伐採してお金に変えてしまうというインセンティブが高く働いてしまいます。そこに対してオルタナティブなアイデアを提供できないかというのがREDD+の目指すところなんです。」(内田さん)

森林調査の様子

■森林保護を妨げるもの

カンボジアでの森林保護を大きく妨げている要因の一つは、土地の区画整備が成されていないこと。ポルポト政権時代にそれらが撤廃され、さらには境界標も存在しなかったので、土地の所有権や範囲を示す境界が不明瞭となっている。

森林保護においては、国家として地図上のどこからどこまでを「自然保護区」とするのかを、いかに明確にするかが重要なのだ。

「いわゆる森林伐採が悪という考え方は実態を表しているとは思えなくて、自然保護区の境界線であったりそれを周知するシステムや、パトロール体制が圧倒的に不足していることが問題なのです。実際に森に入っていけばもちろん境界線は見えないわけで、悪意なく土地の開拓が進んでいくということも起こってしまう。また、地元住民の合意なしにREDD+を推し進めることはできないというルールもあります。REDD+の保護対象地域を選定する場合には、一村一村を回って地元住民に説明をした上で合意を求めなければなりません。これはなぜかというと、彼らの権利を尊重するということ。地元住民たちは昔からその土地で暮らしていて、森林資源を活用しながら生活を営んできました。REDD+は森林を守るという点では彼らに裨益するのですが、守ることが先走ってしまうと彼らの生活を逆に脅かしてしまう。彼らにも自由に使えるようなバッファー的な土地を村の周辺に設けたり、彼らの生活に適した形で進めていかなければなりません。保護と日々の暮らしの調和を図ることが重要で、現実とかけ離れれたものであってはならないんです」と内田さんは語る。

■ルールを決めるだけでは不十分

開発途上国では、人々の生活基盤である環境の破壊が進み、ますます貧困が深刻化していくという悪循環が起きている。自然環境が刻々と失われつつあり、環境と調和の取れた持続可能な社会と開発を実現していかなければならない。

また、森林減少はカンボジアだけの問題ではなく、地球規模の気候変動にも影響する。地球上の温室効果ガス排出量の約2割が森林破壊に起因しているとも言われ、森林減少を食い止めることは国際社会全体の課題として取り組まれている。途上国援助という従来の枠組みを超えた、新しい発想での国際協力が必要だ。

「カンボジアは、森林保護のルールを設置してそれを『実行せよ』で簡単にできるような状況ではありません。まずは実行可能なように、法規制やインフラも含めた基本的な整備をしていかなければならない。いかに森林を伐採しなくてもいいような体制をつくるかが成功の鍵です。森林を伐採するのも守るのも人間です。なぜ伐採が進むのかを理解しないといけないですし、保護に向かっていけるようなインセンティブを提供していかなければ持続可能な保護活動はできません。いまは悪循環が起きていますが、その中で好循環を生み出していきたいというのがすべての森林関係者の想いなんです。」(内田さん)

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