自然派化粧品メーカー・ラッシュジャパン(神奈川・愛川町)が企画した「残酷なフィニング反対キャンペーン」が、消費者の批判を受けたのはなぜか。同社の伝え方、メディアの信頼性、消費者のリテラシーの3点から考えた。寄付型キャンペーンを行ううえでの注意点とは。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

同社は、5月30日から、生きているサメのヒレ部分だけを切り取り、魚体を海に捨てるフィニングに反対するキャンペーンを行っている。ヒレ部分だけを船に乗せるため、一度に多くのヒレを獲れる漁法だが、ヒレを切り取られたサメは、海の中で泳ぐことができずに、殺されてしまう。日本では行われていないが、世界で行われているフィニングの残酷さを知ってもらおうと、国際キャンペーンを行っていた。

キャンペーンは6月8日までで、期間中、コーズマーケティング(寄付付きせっけんの販売)を行っている。しかし、寄付先の「パンジアシードジャパン」がサメ漁反対の立場を取る保護団体であることから、気仙沼市の水産関係者らから「サメ漁への根拠のないマイナスイメージが広がる」と指摘された。

この件が5月28日に報道されると、6月3日と8日に東京都内の店舗で予定していたイベントを中止した。さらに、全国156店舗で販売を予定していた寄付付きせっけんの取り扱いも90店舗に減らした。

ラッシュジャパンが反対したのは、「フィニング」であって、気仙沼もしくは国内で行われているサメ漁ではない。寄付先団体はサメ漁反対の立場を取っているが、気仙沼市役所は、「気仙沼のサメ漁を特に意識しているのではなく、世界的にサメ漁をやめましょうという主張であると確認できたため、それ自体は特に抗議などをするものではない」とコメントしている。

このコメントは、結いの党の宮城県第一区支部支部長を務める林宙紀衆議院議員が自身のブログで伝えている。

しかし、寄付先団体の方向性に共感していると見られ、消費者から批判を受けたのだ。

では、このような炎上を防ぐには、どうしたら良かったのだろうか。コーズマーケティングの専門家であるCausebrand Lab.(コーズブランドラボ)の代表で、宮城県内の大学非常勤講師・野村尚克氏は、問題点は3つあると指摘する。

一つは、「キャンペーンが必要な背景と趣旨をしっかりと伝え、その上で寄付金の使用目的、寄付先団体の情報を事前にしっかりと公開すべきだった」と指摘する。同社は消費者からの批判を受けてから、パンジアシードジャパンの詳しい概要や「サメや海洋生物の研究費」として寄付金を使うと説明している。野村代表は、「情報公開が後手になってしまっていることが炎上の一つの要因となった」と分析する。

さらに、批判を予測する危機管理能力にも触れた。「アドボカシー的なキャンペーンはかなりしっかりと発信しないと正しく伝わらない。特にキャンペーン名や表現は大事で、間違えればサメに関する全ての事業者へ向けたものと理解されてしまう。サメ水揚げで有名な気仙沼からの批判や懸念も事前に予測できたはずで、復興にも絡むことなのでかなり慎重に行うことが必要」と述べている。 

一方、今回の炎上には同社の伝え方だけでなく、マスメディアの信頼性も指摘する。「報道の内容や関係者の見解は正しく表記されているのだろうか」。過剰な演出があり、「やらせ発覚」と報道されたドキュメンタリー映画「ガレキとラジオ」(監督・梅村太郎)の記事を例にあげ、「やらせ報道の後に女性は記事そのものが事実に基づかないねつ造」だとして新聞社に質問状を送っている。このようなことから、「今回コメントした水産関係者は同地域の代表的な意見なのだろうか」とも指摘する。

同社が支援したのは、パンジアシードジャパンの「サメや海の生態系の研究活動」である。同団体は、サメ漁反対の立場を取っているが、寄付金では、そのような行為を支援することはない。

最後に指摘したのは、消費者のリテラシーだ。「まず企業が発信していることや報道を冷静に読み、その上で多方面から情報を集めることが必要。震災や食文化に関すると冷静さを失う人が多いように思うが、皆、真剣に想っているからこそのことだと思う。震災からの復興や社会問題の解決には全員の力が必要で、いまは冷静に事態を把握することが大事だと思う」と話した。