児童労働ネットワーク(CL-Net)(以下CL-Net、シーエルネット、東京・台東)の事務局長を務めている岩附由香さん(認定NPO法人ACE代表)は、世界の児童労働の解決を目指して、政策提言、アドボカシー活動などを行っています。この度、「2025年までに児童労働ゼロ」を実現するアクションを探るために、アルゼンチンで開催される第4回児童労働世界会議に参加します。「児童労働ゼロ実現」に向けての取り組みについて、岩附さんの想いを聞きました。(聞き手・READYFOR支局=中澤 希美・オルタナS支局スタッフ)
――今、世界で起こっている児童労働の状況を教えてください。
岩附:国際労働機関 (ILO) が2013年に出した推計によると、世界には約1億6800万人の児童労働者がいるといわれています。世界全体でみると、特にアジア・太平洋地域に児童労働者が多くいます。
世界平均でみると、5歳から17歳の子どもの9人に1人が児童労働者なのですが、サハラ以南のアフリカの地域では働いている子どもの割合が高く、5人に1人もの子どもが働いています。
児童労働というと、街とか工場で働いているイメージを持つ方も多いかもしれませんが、実は働いている子どもたちのほとんどが、あまり人に知られない場所で働いています。田舎の農場ですとか農林水産業が多く、なかなか旅行で行かないようなところに児童労働者がたくさんいるのが現状です。
――児童労働には多様な背景があるのですね。普段は途上国での支援活動を行っているNGO・ACEの代表としても活動されていると思うのですが、CL-Netを立ち上げたきっかけを教えてください。
岩附:1997年に特定非営利活動法人 ACEを立ち上げました。ただ、当時は学生で構成された小さな団体だったので、自分たちだけでは出せる力に限りがあると思い、同じように児童労働の問題に取り組む団体でネットワークを組んで、共に活動できないかと思っていました。
児童労働を解決するためには、NGOだけでなく、政府や労働組合、企業など、多くの人が関わるプラットフォームが必要だと思い、2004年に立ち上げたのが児童労働ネットワーク(CL-Net)です。
2017年でCL-Netは発足から13年を迎えるのですが、個々の団体がそれぞれの活動に従事しながらも、共通の目的に向かって協働してアクションを起こし、連携して外へと働きかける場を提供しています。
――CL-Netの具体的な活動を教えていただけますか。
岩附:まず一つ目は、児童労働問題への啓発です。日本で児童労働問題に対して活動を行う上での一つのハードルは、そもそも児童労働の問題自体が知られていないということです。問題自体を知らないと、「児童労働問題はない」と捉えられがちです。
そこで、CL-Netでは毎年、啓発キャンペーンを行っています。現在行っているのは、「レッドカード+1アクション」。これは国際労働機関(ILO)が作成した児童労働をストップさせる意味を込めたレッドカードを使ったキャンペーンです。
児童労働という問題を真正面から話すのは難しくても、子どもがこんな風に搾取されたり、健康を害したり、教育を受けられない状態というのは、「本当はあってはいけないことなんだ」、という思いを込めて、たくさんの人にレッドカードを上げてもらっています。
それをたくさんの人に見てもらうことで、「児童労働って何だろう?」と関心を持ってもらえるようにという意図のもと行っています。
二つ目は、政策提言です。日本の政策を変えることで世界の児童労働者として働いている子どもたちをもっと救えないかと考えて、2008年頃から署名活動を始めました。2015年までに集めた署名は、累計174万筆に上ります。
署名活動は様々な労働組合のご協力があり、多くの方から集めることができました。この署名は日本政府に具体的な行動を求める内容ですが、この署名に参加いただくことで、児童労働の啓発にも繋がったと思います。
集めた署名は、政府に要請書と共に一緒に提出してきました。ただ、児童労働は内閣府だけでなく、厚生労働省や外務省、文部科学省、経済産業省と、幅広く関わっている問題なので、集まった署名を分割してそれぞれに提出してきました。
提出する際にお会いする方も大臣ですとか、副大臣、政務官など様々です。2016年に提出した際は、塩崎厚生労働大臣にもお会いして、一緒にレッドカードも上げてもらいました。このように、政策を決める側にいる方々にも児童労働の問題を知ってもらい、政策を変えていければ、と思っているのですが、なかなか具体的な政策を変えるところまで行きつけていないのが現状です。
また、児童労働について知ってもらうための学習会を開催しています。最近実施しているのがSDGs 8.7に関する研究会です。2015年に合意されたSDGs(持続可能な開発目標)の中に、「2025年までに児童労働を全廃させる」という目標があります。その目標に向かって何ができるのかを、研究会という形でNGO、労働組合、企業や一般の方と共に、みんなで考えようという場を設けています。
第一回は4月25日に行われ、第2回は6月27日に開催されました。英国現代奴隷法や米国労働省の児童労働への取り組みについて学び、企業、労働組合、NGOなどから30人以上が参加しました。
――今回のクラウドファンデングでは、第四回世界児童労働世界会議に参加するための資金を集めるために行われていますが、この会議とはどういったものですか。
岩附:世界の児童労働に関して取り組んでいる人たちが一堂に会する会議です。今回の会議に参加するのは、情報を得る場、発信する場、出会いを築く場、という3つの意味でとても重要な意味を持っています。
世界会議では、全体の会議の他に様々な分科会が行われるのですが、全体の会議で学びがあるのはもちろん、分科会でも、各国で行われている児童労働撤廃に対しての具体的な事例など、たくさんのことを学ぶことができます。
世界会議に参加することは、そういった先進事例を知ったり情報を得ることで、その知見を関係する人たちに共有したり、それを日本でどう生かせるのかを考える、最良の機会になります。
また、市民社会組織としての意見を発信する場としても、会議に参加することはとても重要です。私は、前回の第3回会議に参加したのですが、世界会議が始まる前日に、開催国ブラジルの労働組合とNGOとで意見交換を行う場があって、そこに招待されました。
会議に参加しないと、こういった会議の成果に参画する機会は設けられません。今回の世界会議では、今までより市民社会組織の声を反映させるための配慮がなされています。
今回の国際会議に向けて分科会のテーマやアイディアを市民社会組織から出せる事前アンケートが実施され、CL-Netとしても意見を提出しました。こういう形で、市民社会組織の意見を聞こうと、世界会議が働きかけている今、会議に参加して自分たちの意見を発信することはとても重要で意味のあることだと思っています。
特に日本は、児童労働者によって生産されたものを消費している消費国として、児童労働の問題に大きく関わっています。そんな中、児童労働に対する考え方や日本での先進事例などを伝える機会を逃さずに活用できたらと思っています。
出会いを築く場というのも、とても大事な意義です。前回の世界会議では、CL-Netで当時行っていたアクションの成果物を提出すべく、アポイントが全く取れない中、今まで築き上げた人脈を駆使して、国際労働機関 (ILO)の事務局長にお会いして一緒に写真を撮ることができました。
この人脈というのは、会議が終わった後の活動にも大きく影響しています。前回の世界会議で出会ったアメリカのNGOのネットワークの方とは、会議が終わった後も交流を深めることができて、会議が終わってから数年後に、日本で開催したSDGs 8.7の円卓会議を共催することができ、意見交換をすることができました。
様々な団体と協働するために、ネットワークとして児童労働問題の解決に取り組むには、こういった世界会議などで出会う幅広い人脈は、今後の活動をする上でもとても重要になってきます。
――今回の世界会議には、なぜCL-Netから複数で参加するのでしょうか?人選のプロセスなども教えてください。
岩附:これまでの世界会議では、第1回と第2回は、CL-Netの代表の堀内が自費で参加しました。第3回は私がCL-Netの予算の関係で一人で参加したのですが、会議と分科会が同時開催されているので、全ての内容を把握するのは物理的に困難でした。
また、今回は経験者と若者を含めた複数人で行くことで、今後開催される世界会議で若い人たちが活躍できる機会を提供したいと思っています。
人選のプロセスとしては、代表の堀内と私と事務局の杉山がCL-Netとして参加します。その他に、CL-Netの会員団体のフリー・ザ・チルドレン・ジャパンさんからも1名が参加します。
実は、会議の前日に若者のセッションが開催される予定なので、18歳未満の高校生も活動しているフリー・ザ・チルドレン・ジャパンさんから若者が参加することで、世界の若者とも繋がるいい機会になるのではないかと思っています。
児童労働者により近い年齢の若者たちが、直接コミュニケーションをとることで、参加される方自身の人生にとっても残る経験になると思います。
特に、若者のパワーは突然開花することもあるので、それが周りの人たちに共感され、広がっていけば、児童労働の解決にも繋がるきっかけになるではと思っています。また、大きな目標に向かって成果を出すときに、世界会議の参加経験者だけでなく、若い人たちにも門戸を開くことで、未来にも繋がっていく期待を込めています。
――会議の後、会議を踏まえた具体的な予定は検討されていますか。
岩附:まずどなたにもご参加いただける報告会を開催しようと思っています。さらに、前回の世界会議の後、外務省と厚労省が共催で意見交換会が開かれ、経団連、JICA、UNICEF駐日事務所などが出席して情報共有をしました。どこが主催するかはまだ決まっていませんが、そのような政府関係者の方々との情報共有の場は作りたいと考えています。
通常、国際会議には各国の政府代表、経済界代表、労働界代表、市民社会代表が招かれることになっています。前回の会議では、日本からはCL-Netが市民社会代表として参加しましたが、前回の会議に日本から出席したのは外務省の方1名とCL-Netだけでした。
先進国の中でも日本は参加者が少なく、日本全体で児童労働に対する関心が薄いのかな、と感じてしまいます。もし、日本からそれぞれの立場の代表が参加したとしても立場が違いますし、参加できなければより一層、意見交換の場は必要になると思います。
また、企業も、多国籍企業はグローバルに情報提供しながら活動をしているので、国際機関とも強い繋がりがあるのですが、日本企業はまだ、そういった繋がりは少ないと感じています。
児童労働に対して熱心に何かやっている日本企業が見当たらないから声がかからない、というのが現状なのだと思います。なので、そういった意味でも、CL-Netが世界会議に参加する意義はとても大きいと思っています。
――最後に、今回のクラウドファンデングに対する意気込みを教えてください。
岩附:世界会議は4年に一度の貴重な機会なので、是が非でも参加したいです。複数人で参加することで、世界で多様な取り組みをしている人たちにより多く出会って情報を共有することができたらと思っています。
SDGsにある「2025年までに児童労働を全廃する」という目標に向かって、どう戦略を取ったら良いのか、どういった貢献できるのか、という方法を見極めるためには、世界会議に実際に足を運んで参加するということがとても重要です。どうぞ皆さまご支援をよろしくお願いします。
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