伊藤忠記念財団は視覚障がいや発達障がいがある子ども向けに電子図書普及事業を行っている。視覚障がいは高齢者に多いため、音訳や文字が拡大された本は大人向けの内容がほとんどであった。子ども向けの本を電子化したことで、初めて読書感想文の宿題に取り組むことができて、「自信を得た」という声も上がっている。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

電子図書普及事業部長・矢部氏(写真左端)と伊藤忠記念財団 事務局長・中島氏(写真中央)と電子図書普及事業部課長・中村氏

同団体は2011年から、毎年全国の特別支援学校、図書館、医療施設など500を超える施設に電子図書を寄贈している。配布しているのは、約150作品を収録した「わいわい文庫」と名付けたCDだ。パソコンやアイパッドに取り入れることで、読書を楽しむことができる。マルチメディアDAISY(デイジー)と呼ばれる電子図書規格の一つだ。

著作権の問題は2011年、文化庁が認めた団体は、障がい者に読書機会を提供する場合は例外とみなすと判断した。画面に表示された文章が、一文ずつ色づけられ、同時に音声で読み上げられる。文字の大きさや読む早さは自由に調節可能だ。

読まれる部分は、色づけされる

人生で初めての読書に没頭する子どもは多いという。電子図書普及事業部長・矢部剛氏は、「6時間を超える音訳も、熱心に聞いている。ほかの子と同じように、夏休みの宿題である読書感想文に初めて取り組むことができて、自信につながっている」と話す。

現在、特別支援教育を受ける生徒数は増加している。2008年は23万4153人だったが、2012年には36万人を突破した。また、文部科学省の調査では、通常学級に通う子どもの中にも、読み書きに特別な支援が必要と思われる児童、生徒が2.4%在籍するとされている。

同団体が製作したマルチメディアDAISYを使えば、読書することができるが、普及するための課題もある。課題は大きく分けて2つある。1つは、配布先の施設職員からの理解が低いことだ。せっかく配布したのに、ITに詳しくない職員の目にとまると、使われないのだ。

初めて配布した2011年の配布先は1145カ所だったが、半年後に使用状況のアンケートに回答してくれたのは、半数以下の400カ所だけだった。矢部氏は、「使うことを拒否しているのではなく、マルチメディアDAISYを知らない職員が少なくなかった」と説明する。

そのため、矢部氏は2012年から全国をまわり、普及のためのセミナーを開いてきた。そのかいもあって、徐々にだが、配布先の施設数は増えている。

もう一つの課題は、作品数の少なさだ。著作権の問題で、配布することはクリアしているが、製作に多くの時間がかかるため、作品数が豊富ではなく、個々の要求にマッチするまでに至っていないことである。

マルチメディアDAISYを製作しているのは、主に2名のスタッフで、編集・音訳ボランティアも合わせても15人ほどだ。一作品つくるのにも多くの手間がいる。

音声データと、文章部分を適合するスタッフ

絵本のページを一枚ずつ切り、スキャンして、電子化する。そして、音訳ボランティアに読んでもらった音声データを確認し、一文ずつあてはめていくのだ。読み方の間違いや、雑音が入っていたりすると、とり直しだ。たとえば、20ページの絵本をつくるのに、音訳を除き編集だけで約2週間かかる。

同団体は昭和49年にでき、青少年の健全育成を目指し活動している。読書の啓発活動もその取り組みの一つだ。同団体事務局長・中島司氏は、「これまで本を読むことができなかった子どもたちが、読めるようになる社会をつくっていきたい。そのためには、電子図書も紙の本と同じ読書スタイルの一つであると社会から認知されることが必要であり、二つの課題に取り組んでいくことが大切である」と意気込む。