8月5から7日までの3日間、インド北部のラダック地方で開かれたワークショップに参加した。グローバリゼーションの波が押し寄せる地域で直面している課題と取り組みを学んだ。その模様をレポートする。(オルタナS特派員=小川 美農里)

ワークショップに参加する筆者(写真・左端)

ワークショップに参加する筆者(写真・左端)

主催はISEC(International Society for ecology & culture)というNGOで、「ラダックから学ぶこと グローバルからローカルへ」というテーマで開催され、世界各国からのべ約80人が参加した。

一人のスウェーデン人女性が始めたこの団体は、環境保全や伝統文化の継承、女性の自立支援や地域に根づいた教育などを実践しており、ローカリゼーションのパイオニアのような存在だ。

ISECが制作した「幸せの経済学」や「懐かしき未来」などのドキュメンタリー映画は日本でも上映されており、ご存知の方もいるのではないだろうか。

私が初めてISECの活動を知ったのは、高校生の時だった。「懐かしき未来」の映像からは、一般的な「開発」がもたらす負の影響とともに、自然と共存し持続可能な生活を営むラダックの人々の、智慧や精神的な豊かさを知った。自己の生活を足元から見直すことが、国際社会で共に生きる上で重要であることを知った。

ワークショップでは、開発やグローバリゼーションの概念の共有や、世界に与えている影響を理解することから始まった。その後、実際にラダックが直面している課題と取り組みを、農、文化遺産の保護、教育、環境保全など様々な活動に携わるリーダー達とともに考えた。

観光地化が進む地方都市、レー

観光地化が進む地方都市、レー

ラダックはチベットと隣接した地域で、独自の文化と壮大な自然を有する地域だ。美しい自然と伝統文化は、観光客を呼び寄せ、今では年間約25万人の訪問者であふれるが、観光客の急増による水資源の減少やゴミの問題など課題は山積みだ。NGOの調査では、2011年の時点でラダック市民の約3倍もの水を観光客が消費しており、地下水の貯蓄を圧迫していることが明らかにされている。

自然の中に散在するプラスティックゴミは手をつけられないほどで、 例えゴミ箱に捨て収集されても、 処理やリサイクルを行う施設は近隣にはなく、残念ながらそれらはすべてゴミの山に埋もれていくだけだ。

そのため、NGOを中心として、コンポストトイレの使用を推奨し、人口が都市に集中しないように、地方のファームステイやエコツーリズムなどに取り組んでいる。

また、「ゼロ・ウェイスト運動」として、プラスティックやペットボトルの使用を控えることを呼びかけ、マイボトルに飲料水を充填できる場所を街中に設置するなどの取り組みがなされている。

余談だが、世界で第3に大きな産業が包装産業ということからも、環境汚染と私たちの消費行動は関連しており、世界的な課題であることが分かる。

ホテルの裏側にはゴミが散在している

ホテルの裏側にはゴミが散在している

現代教育の問題点も挙げられた。通常の教育システムでは、個性の尊重や地域の特性や文化を伝えるのではなく、均一化・一般化された知識の詰め込みとなっており、若者の地方離れや比較競争による自己肯定感の低下などを生み出している。それに関連した自死率の上昇も危惧された。

そのため、文化遺産の保護に関わる団体が中心となり、教育機関に対して伝統文化を紹介するテキストブックを配布し、地域の持つ文化や伝統に誇りが持てるような取り組みがなされている。また、画一的な知識の詰め込みではなく、実践的な授業も少しずつだが増えてきているようだ。

食、農にもグローバリゼーションは大きな影響を与えている。中心都市のレーや観光地を歩くと、多国籍料理のレストランが乱立している。以前は自給自足の生活を送っていたラダックの人々だが、食の多様化や価格競争によって、現在ではレーで消費される穀物の6割以上がラダック以外の地域で生産された農産物に依存するという現象が起きている。

低価格の国内輸入品によって、地域の農家は経済的な困窮状態に追いやられている。農薬や化学肥料の使用量の増加も問題となっている。

そのため、ISECが中心となり、ラダックの人々や農産物を支援できるようなレストランやショップを紹介した「エコマップ」を制作し、観光客に配布したり、有機農産物を協同組合で生産、販売したりするような活動がなされている。

ワークショップでは、世界各地のグローバリゼーションに反対する動きも知ることができた。 例えばボリビアでは、市民がマクドナルドの留置に反対し、今は店舗がひとつもないという。市民であり消費者でもある私たちが、社会を変えるちからがあるということが紹介された。

伝統的な技術で修復されたカフェでは、ローカルフードが食べられる

伝統的な技術で修復されたカフェでは、ローカルフードが食べられる

ラダックが直面している課題は、日本を含む世界中で起こっている現象だ。私たちにできることは、何だろうか。
ワークショップに参加したラダック出身の大学生(22)に聞いた。

「開発の定義は何だろう。日本やアメリカの定義する『開発』が開発であれば、ラダックもそれに従っている。でも、もし実際に起こっていることを人々が考え、理解できたら、この開発がもたらす良くない側面に気がつくと思う。開発の意味を、再定義したら個々人が変わるのではないだろうか。開発先進国でも、開発やグローバリゼーションの定義をディスカッションする機会を若い時から誰もが持ってほしい。内面的な幸福を考えるなら、開発先進国の人々が、自分たちのライフスタイルを考えなおしてほしい。それが私たちに影響しているから」

ラダックが直面している課題や取り組みを学ぶ中で、いわゆる「先進国」と呼ばれる、日本で暮らす私たちが取り組むべきことを、改めて考えさせられた。