三井不動産レジデンシャルは11月26日、マンションのコミュニティを考えるシンポジウム「Mirai Mansion Meeting(ミライマンションミーティング)を開いた。同社社長や識者とのトークセッション、参加者300人でのワークショップを行った。マンション・コミュニティについての期待と課題が明確になった。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
同シンポジウムの第一セッションには、藤村龍至建築設計事務所の藤村龍至代表が登壇。藤村代表は、三井不動産レジデンシャルが1980年に建てたサンシティ(東京・板橋)を例にあげ、都市におけるマンション・コミュニティについて紹介した。
サンシティには、居住施設に囲まれた森がある。その森には約5万本の樹木があり、それに加えて居住者も植樹活動を行う。居住者の中には、グリーンボランティアという、施設内の掃除や植樹活動を支える者もいる。施設内には、スポーツクラブや保育園もあり、街として機能している。
藤村代表の事例発表の後、同社の藤林清隆社長、三井不動産レジデンシャルサービスの岩田龍郎社長を加えてのトークセッションが行われた。そこでは、コミュニティに対する期待・醸成するための課題について話し合われた。
藤林社長は、サンシティを経年優化が具現化できた記念碑的プロジェクトと位置づける。経年優化とは、年を経るごとに、愛着が深まり、その街で暮らすことの価値が大きくなっていくことを指す。住民の植樹祭がきっかけで、コミュニティが芽生えたと言う。
藤林社長は、マンション・コミュニティを醸成するためには、3つの視点での取り組みが必要と考える。1つは、家庭内での絆、そして、近隣地域とのかかわり、最後にマンション内でのつながりだ。この3点を抑えることが、同社が目指す経年優化になると話した。
住民がマンションに求めるコミュニティ意識も変化してきている。三井不動産レジデンシャルサービスの岩田社長は、「2000年頃までは、プライバシーやセキュリティなどが重要視され、コミュニティのわずらわしさから逃れることを期待されていた。しかし、東日本大震災の影響もあり、ご近所付き合いがより見直されてきた」と話す。
同社によると、サンシティ内での緊急連絡網の回収率は、震災前は40%だったが、現在はほぼ全員が記入していることが分かった。そして、マンションを終の棲家に選ぶ人の割合も増えている。1960年代には、20%だったが、バブル崩壊後から上がり、2014年は53%。マンションに永住しても良いという考えを後押ししているのは、施設内でのコミュニティだ。
マンション・コミュニティに対する関心が高まっている。さらにコミュニティを活性化していくために、藤林社長は「居住者が主体的に参加できる仕掛け」、岩田社長は「施設内の多様性を尊重し、居住者同士のコンセンサスの取り方を配慮すること」がカギになるとあげた。
■場からコミュニティは生まれない
トークセッション2では、「今の時代、コミュニティはどこから生まれるのか」というテーマで話し合われた。登壇したのは、ena AMICE代表の蛯原英里氏、チームラボ代表の猪子寿之氏、issue+design代表の筧裕介氏。モデレーターは、十数年に渡ってコミュニティ研究をしてきた三井不動産の川路武氏が務めた。
セッション冒頭、猪子氏は、「場からコミュニティは生まれない。コミュニティから場が生まれるようになった」と発言。歴史的に、人々は交通手段が限られており、生まれた場所にコミュニティを依存してきた。しかし、ネットが発達し、物理的に距離が離れていても、つながれるようになった。そのつながりから、場が生まれているという。
だからこそ、マンションの商品企画も、コミュニティにアプローチしていったらどうかと提案した。コミュニティに特化したマンションを建設すれば、立地条件が悪くても、人が集まるのではと考える。
筧代表は、この意見に対して、コミュニティ弱者はますます孤独になっているのではないかと指摘。「SNSの発達で、コミュニティができる人はできるが、できない人はまったくできない」。
筧代表は、子育てをする母親を例にだした。子どもの育児に時間を取られ、コミュニティがなくなり、虐待につながることを問題視する。子どもを持つ蛯原氏も、「昔は近所のおじちゃんに遊びを教わり、温かい思い出があった」と振り返る。
猪子氏は、「昔は集団で子育てしていたが、いつしか個人で子育てするようになってしまった。子育ては、母親と父親の役割という現代社会の通念がある」と考察。子育てに特化したマンションをつくり、ともに世話をし合うようにしたらどうかと答えた。
■300人ワークショップ
トークセッションが終わったあと、参加者300人でのワークショップを行った。「実際にぼくたちは何ができるのか」、マンションの理事会委員に選出されたという設定で、擬似理事会を開いた。同じテーブルについた8人ほどのグループに分かれ、マンションの未来像を語り合う。
ワクワクするマンションとは何か。各テーブルでは、「夜11時からの飲み友達がいる」「部屋を四季ごとに変えられる」「恋活ができる」などの意見が出た。なかには、復興支援につながるマンションとして、村と提携し、住めば「おばあちゃん・おじいちゃん」ができるという仕組みを考えた人も。
カベのない部屋、おすそわけできる冷蔵庫完備など、奇抜な発想と同じように課題も出た。近所とのコミュニケーションとして、あいさつまではできるのだけど、その先の会話が続かない。コミュニティを醸成する仕組みも大切だが、前提として、居住者が他人に興味を持つために1歩踏み出す勇気がないといけない。
参加者300人は20~40代の社会人・学生が中心で、初対面どうしだが、話は尽きず、マンション・コミュニティの未来について夜10時まで退席者もでず盛り上がり、関心の高さが伺えるイベントとなった。
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