「THINK NOW ハンセン病」キャンペーンを行ってきた日本財団は、ハンセン病の認知度に関する調査を約3000人に実施した。ハンセン病を考える上で大事なものはなんだろうか。(中嶋泰郁・早稲田大学教育学部社会科社会科学専修3年)

筆者がハンセン病という病気を「認知」したのはいつ頃だったろうか。恐らく古屋兎丸の「インノサン少年十字軍」という漫画の中で、街で住民に除け者扱いされている男の子を見たのが最初だろう。

あるいは、高校の倫理の授業で、熊本県の旅館がハンセン病患者の宿泊を拒否した事件を習ったことだろうか。中世ヨーロッパの出来事、水俣病やイタイイタイ病のような教科書上の病気だと思っていた。なお、水俣病の症状はあっても病気だと認定されずに苦しんでいる人がいるというのも後になって学んだ。ハンセン病は、漠然と名前だけ知っているにすぎなかった。

日本財団は、ハンセン病への理解を深め、差別や偏見をなくすために「THINK NOW ハンセン病」キャンペーンを進めている。その一環で、2014年末には「ハンセン病認知度調査」を行った。

全国の老若男女約3000人に対して行った、ハンセン病をどの程度知っているかに関する調査である。調査の結果は、ハンセン病を「認知する」と「知る」「わかる」には、存在するであろう違いを示した。

まず、ハンセン病を、「知っている」と答えたのは、3012人の調査対象の内の64.4%の1941人であった。「知っている」を選んだ内でも、認知度に応じて三段階に分けられる。全調査対象の内、「よく知っている」「知っている」と答えたものは、合わせて18%の563人であった。「少し知っている」だけの人が、46%の1386人であり、大半であった。

ハンセン病認知度調査

ハンセン病認知度調査

「知っている」という内容については、「偏見や差別がある病気である」と回答したのは79.5%であった。全調査対象のほぼ半数(51.2%)は、ハンセン病の偏見や差別については何らか知っていることになった。

一方、「日本にはまだハンセン病の療養所がある」、つまりハンセン病の元患者の方がまだいる療養所がある、というのを知っているのは45.5%。ハンセン病は「治る病気である」と知っていたのは、43.5%であった。この2つは、日本のハンセン病の現状を語る上で大事なポイントである。これらを知っているのは、全調査対象者の30%を下回った。

ハンセン病の偏見や差別知っている1543人は、どんな偏見や差別を把握しているのか。一番多いものは、84.6%「隔離をされる」であった。全調査対象の4割は、ハンセン病患者の隔離を知っていることになる。

次いで40%前後が「結婚できない」「就職できない」「家族から捨てられる」といった事実を知っている。ここであげられた差別や偏見というものは、ハンセン病患者と一般の人々の関係性におけるものが多い。この中には、「断種をされる」「懲罰を受ける」「働かされる」といったものは含まれていない。ハンセン病患者が実際に療養所で行われた直接的扱いについては調査が行われていない。

ハンセン病認知度調査表

患者が、「犯罪者」「労働者」として扱われていたというのが日本のハンセン病政策の特徴でもあった。回復者の方の話でもあがってくる内容である。

ハンセン病を知っている人の中でも、実際にハンセン病患者や回復者に会ったことがあると答えたのは、4.7%にすぎなかった。全調査対象の内、3%の91人だった。知っている偏見や差別について、「断種」「懲罰」の調査を行っても、100人程しか知らないのではないかと推察される。

ハンセン病のことを知ったのが、当事者の話という人も少ないと推察される。知っていると答えた内の83.9%は、「新聞やテレビ」がきっかけであった。次いで「学校の授業」で知ったというのが18.9%だ。全調査対象の3%しか当事者に話を聞いたことがないのと併せ、間接的に知った人が殆どであるのがわかる。

偏見や差別をなくすためにどのようなことが必要かについても調査をしてある。当事者による講演が想定されていると思われる「市民向けに講演会やシンポジウムを行う」のが重要だと考えているのは、21.8%に過ぎない。

多い回答は、「学校で正しい知識を教える」81.5 %、「メディアが積極的に報道、紹介する」63.3%であった。ここではハンセン病について知る上で、実際に伝えられる内容があまり加味されていないのではないか。

今回の調査対象の中では3%しか当事者の声を聞いたことがない中、学校の先生でも詳細な情報や知識を生徒に教えるのは難しい。教科書に載っている以上の知識は得づらく、学生が実感を持ってハンセン病の実態を知ってもらうのは難しいと思われる。

ハンセン病についてほとんど知らなかった筆者が、ハンセン病に関心を持つようになったのは当事者に会ったことだ。大学のジャーナリズムの授業の一環で、国立ハンセン病療養所沖縄愛楽園を訪れた。

驚いたのは、患者が働かされたり罰を受けていたという歴史だけではない。より衝撃を受けたのは、自身に誇りを持ち、力強い語り口の元回復者の平良仁雄さんとの出会いだ。彼は、「同情をしてほしいのではなく、関心を持って欲しいのだ」と語っていた。

ハンセン病について「知っている」と答えた1941人の間でも、どんなことが行われていたか詳しく知っている人は少なかった。私の知っている「ハンセン病」と、あなたの知っている「ハンセン病」は違っている。

勿論、当事者の経験した「ハンセン病」とも違っているだろう。今回のキャンペーンは、メディアでメッセージを見る人も、主体的に参加をする人もいた。その点で、ハンセン病を知らなかった人は、名前だけでもより「認知する」ことに繋がった。既に知っていた人は、より「知って」「わかる」機会になったのではないか。

THINK NOWハンセン病。1人1人が関心を持って、当事者の声を何らかの形で聞き、何かを考えるのが大事だろう。

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