廃棄されるはずだった食料で食事を提供しているカフェ、The Real Junk Food Project(以下、TRJFP)が英国で注目を集めている。このカフェが2013年12月のオープン以来13か月間でセーブした食料は約35トン、20,000食分(TRJFP調べ)。来るもの拒まずの精神でお客が払いたいだけ払うシステム(Pay as you feel)により、地域のコミュニティー活性にも一役買っている。(オルタナS特派員=平 芙実加・リーズ大学)

廃棄食料によるカフェが英国で広がりをみせる

廃棄食料によるカフェが英国で広がりをみせる

TRJFPは「今日の食料システムを根本的に変える」ことを目標に2013年イギリスの一都市、Leedsから始まった。これまで(2013年12月~2015年1月)に約20,000食分、35トンに及ぶ食料を回収。捨てられるはずだった食料でカフェを営むという斬新なアイディアは英国BBCやThe guardian紙をはじめ多数のメディアに取り上げられ話題となった。

TRJFPのFacebookページの「いいね!」の数は現在7,000を超え、プロジェクトに共感した人々よりイギリス国内に計12軒の同様のカフェがオープンしている。食事はスーパーからの賞味期限切れの商品や農園からの規格外の農作物などにより作られる。提供するメニューはその日回収された食料により決まるというから面白い。もちろん食料を選ぶ際には衛生面に細心の注意を払う。

筆者作成

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筆者がオーダーしたジャガイモから作られたモロッコ風スープ。スパイスの効いた奥深い味わいだった。カフェの名前、Junkの直訳は“ガラクタ”だが、それを感じさせないほど美味い

筆者がオーダーしたジャガイモから作られたモロッコ風スープ。スパイスの効いた奥深い味わいだった。カフェの名前、Junkの直訳は“ガラクタ”だが、それを感じさせないほど美味い

英国で廃棄される食料は年間約1,500万トン、その半分が家庭内からだという。それと比較するとカフェがオープン以来セーブした35トンは微々たるものだ。だが、TRJFPは食料廃棄を減らすと同時にカフェのお客の食料に対する認識に変化を与えることで食料廃棄の根本的な解決を目指す。

プロジェクトの初期からのメンバーでディレクターのConor Walshさん(24)はこう語る。「家庭内からの食料廃棄をストップさせてはいないが、お客さんの食に対する気づきや考えを変えることはできている。カフェに来たお客さんに対してその調理の仕方など、できるだけ多くの知識をシェアしている。・・・カフェを通じて人々がもっと食べ物に関心をもつようになってほしい」カフェ開店当初はどれが何の野菜か判別できないようなお客もいたという。TRJFPはカフェを媒体に一消費者であるお客に対して廃棄食料を減らし食料問題を考える機会を与えている。

さらに、TRJFPは地域のコミュニティー活性化にもつながっている。それと深く関わるのが、払いたいだけ払うPay as you feelという料金システム。店内にはレジの代わりにお客が自由にお金を入れられるボックスが設置してある。

そのお金は水道光熱費などカフェの運営費となり、無償でコナさんをはじめとしたスタッフは働く。それでもこのシステムを維持する大きな2つの意図がある。1つは、経済力で人が判断される社会に対する批判、もう1つは来る者を拒まない精神だ。

Conorさんは、「もしメニューに値段があったら、カフェに来る人がそれを払える人々に限定されてしまう。私たちは経済力でこの社会を分断するのではなく、あらゆる人に来てもらってその人の価値で値段を決めてもらいたいのです」と訴える。

あらゆる人に門徒を開くTRJFPは、Leeds市内でも経済的に貧しい人の住むエリアに店を構えている。来る者を拒まないスピリットが功を奏し、カフェは学生から地域のお年寄りまであらゆる人が集う。時にこのカフェはコンサート会場にもなり、コミュニティースペースとしの役割も果たしている。

TRJFPディレクターのConor Walshさん(24)

TRJFPディレクターのConor Walshさん(24)

TRJFPが私たちに期待するのは行動の改善ではなく、「どれだけ多くの食料が廃棄されているのかという事実の理解」だ。そして「このプロジェクトの究極のゴールは、世の中から食料廃棄がなくなり、このようなカフェがなくなること。」だとConorさんは言う。

日本でも廃棄食料は大きな問題となおり、年間約1700万トンの食料廃棄物が排出されているという(農水省平成23年度推計)。その現状を打開しようと官民双方で様々な取り組みが実施されている。農水省は小売業の流通における慣習の改善を図り、年間約4万トンの食料廃棄を減らせられると見込んでいる。また、市民サイドからは家で余った食材を持参して行うソーシャルアクション、「サルベージ・パーティ」が発案され食料廃棄を見直す輪が広がりつつある。

TRJFPは賞味期限切れの食材も含めて調理しているため、公衆衛生の点で日本での実施は多少困難が予想できる。しかし、日本での廃棄食料の約6割は家庭内から排出されている現状とその打開に向け高まる機運からすれば、私たちが廃棄食料を減らすことはあながち困難ではなさそうだ。

参考:TRJFP公式ページ http://www.therealjunkfoodproject.co.uk/
農水省 食品ロスの現状フロー図(平成23年度推計)http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/pdf/losgen.pdf
サルベージパーティー公式ページ http://salvageparty.com/about/
日本経済新聞2014年3月「「食品ロス」年4万トン削減可能 農水省が試算」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2504R_V20C14A3CR8000/

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