「奇跡」「カリスマ」――地域おこしの成功例を表現する際にしばしば用いられる言葉だ。この現状に危機感を抱くのが、山形県朝日町で地域振興に取り組む佐藤恒平さん。佐藤さんの考える「非主流」地域振興の考え方とは。(横浜支局長=武居 隼人・横浜教育人間科学部3年)
「こんなにも多くの地域が活性化を求める時代に、奇跡と表現されるような成功事例の模倣ばかりが目立つ現状を打破したい」と佐藤さんは語る。日本中に過疎地域が溢れている中で、地域おこしのニーズが高まっている。日本中のあらゆるところで、地域イノベーターの姿を目にする。
一方で、そうした地域おこしの成功要因は、一人のカリスマ的存在のアイデアやモチベーションに起因することが多く、安易な模倣は失敗ばかりを量産してしまう。
佐藤さんの狙いの一つは、この安直な模倣で引き起こされる、地域振興活動の低い成功率を上げること。そのために取り組んでいるのが従来の主流な地域振興とは異なるアプローチで、その名も「非主流地域振興」だ。
例えば、着ぐるみによるPR活動「ご当地キャラ」の非主流として生み出した桃色ウサヒがその一つ。
佐藤さんが取り組んでいる活動のひとつが、特徴のないウサギの着ぐるみを使った地域振興企画「桃色ウサヒプロジェクト」。従来のご当地キャラと異なり、桃色ウサヒの外見にこれといった地域の特徴はない。しいて言えば「無個性・無軌道・無表情という3拍子がそろっている」という設定ぐらいで、その地域を背負ってPR活動をするキャラとしてはあるまじき存在だ。名前はアサヒとウサギをかけて作られたものだが、朝日町でウサギが特別有名なわけではない。佐藤さんは、「こんなキャラクターがいるだけではなんのPRにもなりません」と話すが、実は、そこがウサヒの一番の狙いだと言う。
キャラクターの外見が頼りないから、住民の方々からの運営やカスタムのアイデアが積極的に出てくるのだ。のです。
通常の地域おこしでは、住民を引っ張るリーダーがアイデアを出し、それに合わせて住民が動く。しかし、ここ朝日町の場合はそれぞれが正反対の役割を果たす。無個性で頼りのないウサヒを何とかするため、住民があれやこれやとアイデアを出す。
佐藤さんはそのアイデアを実現するために、「中の人」となって動く。住民の下にたってリクエストに応える役割を演じる事で、住民がウサヒ(佐藤さん)のプロデューサーとして関わる、他には見られない住民参加の仕組みがみられる。
朝日町のおすすめを紹介する印刷物「朝日町おすすめ番付」も、地域のPRペーパーとしては非主流の存在である。地元の人オススメのスポットやグルメが相撲の番付のデザインを模した表になっている。特徴的なのは白黒であることと住所が記載されていないこと。
白黒であるがゆえに誰でも容易にコピー印刷を行うことができる。お店の壁に貼る、町外への贈り物に添えるなど、住民の積極的な参加を促すのが狙いだ。また、住所を記載しないことにより、それを尋ねる外の人と尋ねられる住民との会話を生み出そうとしている。
驚くのは、どちらの取り組みも住民に浸透しているということ。まちで出会った人との会話で佐藤さんの名前を出すと「あ、中の人ね」と話す人の多さにウサヒの浸透度の高さを感じる。
佐藤さんと昼食を食べるために入った定食屋さんでは、80歳に近い店主が店の壁に貼った地元番付の効果について意見を述べていた。朝日町を旅して最も驚いたのは、このように住民の積極的な参加が見られたところだ。
「僕が目指すゴールも主流のそれとは違わない(非主流は反主流ではないから)。違うのはそこへのたどり着き方なのです」(佐藤さん)
世に言う成功例が既に頂上までの到達が確認された経路ならば、佐藤さんの場合は同じ頂上を目指す未開の山道のような道筋だという。安全ではない上、成功事例より時間がかかる道かもしれない分、そこでしっかりと思考し、苦労しなくては進めない。
佐藤さんは、成功例を目にすると、ゴールばかりが目立ってしまい、一番大事な「道のり」を、とくに考えずに進もうとしてしまうのではないかと指摘する。
「でも実は、その道のりを開拓するために苦労し、試行錯誤したことこそが成功した理由なのではないかと考えています。この道を開拓する行為が『非主流」の本質ですね」
朝日町での試行錯誤の成果を全国の過疎地域に応用可能にすることが、佐藤さんの目指すところだ。どこでもだれでも頑張ればそれなりの成果がある「奇跡じゃないまちおこし」のモデル構築に向けて佐藤さんの努力は続く。この新しい取り組みが日本中の過疎地域を助ける日が訪れるかもしれない。
佐藤さんは、これから地域おこしをする人にエールを送る。
「もちろん、朝日町での成功を他地域に応用する際は、その道のりをそのまま模倣するのではなく、自分たちだけの「非主流」を思考してもらいながら、まちづくりを楽しんでもらえればと思っています」
桃色ウサヒの無表情な顔とは裏腹に、朝日町の住民には笑顔と活気があふれていた。
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