伊藤忠記念財団は3月5日、子ども文庫助成事業の贈呈式を開いた。民間や養護施設などで、子どもたちに読者啓発、指導を行っている79の団体・個人が助成を受けた。同日、全国から50団体・個人の受賞者・受領者が集まり、「読み聞かせを文化にしていきたい」と結集し、力を合わせた。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
同日、伊藤忠商事には、2014年度同財団から助成を受ける団体の代表者等が集まった。助成内容は大きく分けて3種類。現金助成、図書現物助成、個人の表彰だ。
現金助成では、子ども文庫や小児病棟、養護施設などで子どもたちに読書啓発・指導を行っている民間団体・個人に対し、図書や機材の購入費用を助成するものなど。団体55件に1650万円を助成した。
図書現物助成では、国内外の文庫活動をされている団体に児童書を送るものなど、団体22件に330万円相当を贈呈した。そして、児童図書館を20年以上運営してきた個人を功労賞として表彰した。
子ども文庫助成事業の汐崎順子選考委員長は、「子どもたちへ本を読み聞かせる活動を同財団が支援してきて40年以上経つが、将来により良い形でバトンを渡すために草の根でがんばっている誠実な姿は当時から変わっていない」と講評した。
同財団は、次世代育成の一環として、子ども文庫への助成を1975年から行ってきた。これまでに助成した件数は1951件で総額は9億8千万円にのぼる。
■読み聞かせで子どもに愛着
贈呈式では、受賞者挨拶として、「子どもの本購入費助成」を受けた与那原町しまくとぅば ボランティアの会(沖縄)の屋比久澄子氏が登壇した。屋比久氏は、「読み聞かせは文化」と話す。
同会は27年目を迎える。所属するメンバーの平均年齢は70歳を過ぎているが、沖縄で古くから伝わる物語を紙芝居にして、島言葉で子どもたちに聞かせている。屋比久氏は、「だんだんと話す人が少なくなっている方言も受け継がれるし、島の文化も知ってもらえる」。
立ち上げた当初は、3メートル四方の小さな一室だったが、今では、母親が子どもに本を読み聞かせるスペースとして多くの住民に活用されているという。
読み聞かせは、「子どもたちに愛着を与えるもの」と話したのは、小規模住居型児童養育事業・児童福祉施設「ファミリーホーム高橋」(徳島)を運営する高橋芳子氏。同施設では、虐待やネグレクトにあった5~20歳の子どもたちを引き受けて育てている。
子どもたちは、親からの愛情を知らないので、大人に距離感を抱く。そこで、高橋氏は、毎晩絵本を読み聞かせている。同施設で育つ小学3年生は、家に生ゴミが放置され、食事も与えられない劣悪な環境で暮らしていた。いつ、親に暴力を振るわれるか分からない状況だったので、安心して眠ることもできないでいたという。
その子は2年前の小学1年生のときに施設に来たが、毎晩の読み聞かせの効果で、今では安心して眠れるようになっている。その子自らが、「今日はこの本を読んでほしい」とリクエストしてくる日もあるという。
■「絵本の言葉は、学校では教えられない」
贈呈式に出席した、同財団理事で元アナウンサーの山根基世氏は、絵本の読み聞かせで「学校では教えられない、言葉を学べる」と話す。その理由は、教科書とは違い、絵本は、登場人物の喜怒哀楽が描かれていて、毎日の暮らしで使える言葉で書かれているからだ。
さらに、読み聞かせで地域・全国にネットワークをつくり、子育てを親だけの役割にしないように訴え、「朗読を手段にして、人が集まることで、さまざまな大人たちに囲まれて子育てを行える。すばらしい人間力を備えた人に育てるための格好の方法」と薦めた。
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