映画監督の紀里谷和明氏はクラウドファンディング(以下CF)で、社会的課題を映像化するプロジェクトの第二弾を始めた。今回のテーマは「子どもの貧困」で、いじめや虐待、自殺など子どもたちが抱える苦しみを映像化する。紀里谷氏は、「知らないところで、子どもたちが苦しんでいる。この現実から目をそらさないでほしい」と訴える。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

第2弾のプロジェクトに挑戦する紀里谷氏

第2弾のプロジェクトに挑戦する紀里谷氏

今回、紀里谷氏が取り上げる子どもの貧困とは、「家庭が経済的に貧しく、社会生活に必要なものの欠乏状態に置かれている状態」を指す。具体的には、保険料を払えず無保険の子どもや、給食費、修学旅行費が未納な子どもたちだ。厚生労働省の調査では、貧困状態にある子どもは6人に1人で、その割合は年々増えている。

「子どもの貧困」は親の貧困に影響し、負の連鎖は続く。子どもたちは、授業料が払えないために、進学を諦め、中卒・高校中退などで就職し、社会人となる。しかし、劣悪な労働環境で働かされ、職やアルバイトを転々とし、定期的な収入を得る者は多くない。国の教育機関に対する支出も低く、その額はOECD加盟国の中でワーストクラスだ。2014年の19歳以下の子どもの自殺者数は538人に及ぶ。

23日、このプロジェクトの発表会が都内であり、紀里谷氏は映像化した後、50万円の奨学金を子ども一人に出す考えがあることを明かした。奨学金を出して、子どもがどうなるのか記録化して様子を見ていくという。

■「6人に1人」の実態は不明

今回、クラウドファンディングで一般から資金を募っていることで、特定の冠スポンサーはいない。そのため、企業の意向は存在しなく、社会的課題について関心のある仲間と協力し、映像制作に専念できる。

映像制作を担当するのは、紀里谷氏の呼びかけで集まった有志たちで、企業横断型のチーム。普段は競合関係にある者たちもいるが、「社会的課題の解決」のもとに結集した。

このチームは、昨年初めから、「部活」という活動を始めた。月に2回、仕事終わりに集まり、自分たちが世の中で嫌だと思う問題について真剣に話し合う会合だ。社会人・大学生・主婦など、誰でも無料で入部可能だ。

今回、子どもの貧困をテーマに選んだのも、この部活での話し合いから生まれた。数字では6人に1人と出ているが、「どのような生活をしているのか分からない」という思いからだ。

子どもに奨学金を渡すアイデアも、部活の仲間から生まれた。「チャンスがあれば、子どもは成長するはず。そして、そのことを発信し、より多くの人が、困っている子どもに奨学金を出すようになれば」と考えた。

紀里谷氏は、「システムが機能していない今の世の中は、一人ひとりの意識を変えていくことでしか、良くならない」と強調。「ただ、政治や学校を批判するのではなく、文句があるなら自分たちで動いて変えるしかない」と続けた。

部活1周年パーティーに集まったメンバーに挨拶する紀里谷氏

部活1周年パーティーに集まったメンバーに挨拶する紀里谷氏=4月23日夜、都内で

部活は法人格を取る考えはなく、リーダーや会員の会費などもない。その理由は、「誰のものでもないから」と紀里谷氏は答える。社会に違和感を感じた人が自発的に集まり、各地でどうすれば良くなるのか話してほしい。部活だけにこだわる考えはなく、各自で自由に名称を変えて活動してくれればと言う。

学んだスキルを生かして、誰かのために活動するという、「ペイフォワード」の動きを、紀里谷氏は20年以上前から続けてきた。社会性を感じれば講演会も無料で登壇してきたという。この動きの始まりは、撮影教室だ。居酒屋を借りて、カメラ技術を学びたい人を集めた。参加費は無料。条件は、学んだスキルで、誰かのためになることを実践すること。

このような活動を続けていると、「意識が高い」と揶揄されることもあるという。紀里谷氏は、そう言われるたびに、「違和感を覚える」と語気を強める。

「世の中には、毛皮問題やいじめ問題以外にも多くの社会的課題がある。その問題を話し合うことに対して、意識が高いも低いもない。本来ならば、見なければいけないことから目をそらしているだけ。1年で、子どもが500人以上も自殺していることが分かっているのに、分からないフリをしているだけ。本当にそれで幸せなのか?もちろん、欲しいモノを買いに行ったり、友達と楽しく飲んで遊ぶことを否定しているわけではない。ただ、真剣に、シリアスに議論する時間を持って、なぜ嘲笑を浴びるのか。システムが機能しなくなったこの社会で、熱くなって何が悪い」

紀里谷氏がプロジェクトを掲載しているCFは、Makuake(マクアケ)で、運営はサイバーエージェント・クラウドファンディング(東京・渋谷)。目標に設定している金額は150万円で、締め切りは6月29日。

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