ソーシャルデザイン(SD)とは、自分が見過ごせないと思った社会問題を解決するための新しい仕組みを市民の力で作り出すこと。社会貢献に関心がある人には身近な言葉だが、社会問題の当事者はSDをどうとらえているのか。(ライター・遠藤一)
2013年はSD関連の書籍が何冊も刊行された。その中の一冊『ソーシャルデザイン50の方法』(今一生著、中公新書ラクレ)は精神科通院者やひきこもり状態の人たちの間でネット上で話題になっていた。
本書はSDの事例と応用可能な具体的な手法が100近く掲載されている。
小学5年生から不登校気味になり、ひきこもり状態へ、セクシュアルマイノリティで自死遺族でもある小笠原毅さんはツイッターでタイトルを見た。
「ひきこもり状態の友だちや知り合いが、やっとの思いで施設へ相談に行っても、支援者が『あなたの悩みは分からない』と言いながらもずっとつなぎとめている。全く進展しなかったり、またひきこもり状態に戻ったり。分からないなら他の支援に繋いであげればいいのに」
「この本の目次を見て、50もあったらどんなに行き先が広がるかと思った。CSRや高校生など自分とどう関係があるのか分からない事例もあったが、触発され自分が『ひきこもりのその先50の方法』など提示できたらいいなと考えた」
高校を卒業してから、非正規雇用につき、その後ひきこもったボリジーさん。ひきこもりが集まって事業を行おうとするSNSで本書が話題になっていた。
「政治や経済のことはよく分からないけど、自分の住んでいる世界と自分が、どんどん駄目になってく感じがしている。俺は見ているだけなのだなと思うと、すごく孤独」
「でも、この本に出ている人たちは違う。一人じゃない。楽しそうだし羨ましかった。必要とされていないところで働き出したとして何なのだろうと思っていた。だから『こんなの俺には無理』と突き放せない。ひきこもりは色んな問題の集まり。だからSDはチャンスかもしれない。そして可能性を共有できる仲間が必要だと改めて思った」
著者の今一生さんはかつて精神科通院者たちを取材していた。処方された薬をオーバードーズして死なないよう、互いに様子を見に行けるネットワークを作っていたが、個人の負担が大きく持続できなかった。その結果3人が亡くなった。
「精神科医は診療時間内しか患者を診ない。誰もやってくれないから僕らがやっていた。他の人はどう救っているのだろうと思った」(今さん)
自殺をテーマに取材すると、貧困や人間関係のまずさなど、諸事情が絡み合って起こることが分かった。
「すべてを一気に解決できなくても、それぞれの問題がこじれる前にきっちり解決できる新しい仕組みを生み出せれば、自殺防止できることもある。そんな時社会起業家やSDを知った。この本では新しい解決の仕組みによって、困っている人がどう助かっているかを基準に評価して載せた。なるべく誰もが真似できる事例を優先して紹介した。それは、あなたも明日からできること。すべてのSDは、人が死なないですむ方向につながってゆく」(今さん)
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